中小の建設会社のDX・AI活用事例を公開資料で見ていくと、成果を上げている取り組みの多くは、高額な最新技術ではありません。情報共有のクラウド化、写真・書類の整理、事務作業の集約といった、身近な業務から始まっています。
この記事では、国土交通省の事例集や表彰資料に載っている事例だけを、業務別に紹介します。会社の規模、取り組みの内容、資料に書かれている効果を、出典付きで整理しました。事例は各資料の公表時点の内容です。
後半では、事例を自社で真似するときの判断表と、生成AIを使って自社の計画に落とし込む方法を紹介します。
この記事でわかること
- 中小建設会社のDX事例を探せる公的な資料
- 情報共有・写真・書類・事務・施工の業務別の事例
- 建設会社のAI活用事例(写真の自動仕分け・画像解析・生成AI)
- 事例を自社で真似するときの判断表
- 事例を自社の試行計画に落とし込むAIの使い方
事例の中から自社で真似できる業務を選ぶための一覧表を用意しました。
中小建設会社のDX事例を探せる公的な資料
建設DXの事例は、ツールを販売する会社の導入事例が多く見つかります。自社に近い規模の会社の取り組みを客観的に知りたいときは、国や公的機関の資料が役立ちます。この記事では、次の資料から事例を選びました。
| 資料 | 発行 | 内容 |
|---|---|---|
| 建設業における働き方改革推進のための事例集 | 国土交通省(令和5年5月) | 生産性向上・経営効率化・長時間労働是正の92事例。従業員数や資本金などの会社概要付き |
| ICT指針に関する事例集 | 国土交通省(令和7年3月改訂) | 施工管理と施工のICT活用の21事例 |
| 令和7年度 インフラDX大賞 受賞者資料 | 国土交通省(令和7年12月17日発表) | 工事・業務、地方公共団体などの33団体の取り組み |
事例集の効果は、各社が記載・回答した内容です。同じ取り組みで同じ効果が出るとは限らない点を前提に読んでください。
事例1:情報共有・ITツールで移動と連絡を減らす
従業員5〜9人の管工事会社:身近なツールの組み合わせ
働き方改革事例集の事例Ⅰ-005は、宮城県の管工事業の会社(匿名、従業員5〜9人)です。次のような取り組みをしています。
- パソコンのモニターを1画面から2画面に増やした
- Googleカレンダーで社員の予定を共有した
- 共有サーバーをクラウド(Dropbox)に移し、会社にいなくても作業できるようにした
- 社内の連絡をメールからチャットに変え、社内会議をなくした
- ZOOMでオンライン会議をするようにした
効果として、経営者の感覚で「4人の従業員で1日1時間強の残業がなくなった」とし、月80時間程度の削減と試算されています。予定の確認電話が不要になったことや、2画面化で作業のストレスが減ったことを、特に効果が高かった点に挙げています。
従業員30〜99人の土木会社:現場の見える化
事例Ⅰ-004の刈屋建設株式会社(岩手県宮古市)は、各現場事務所にネットワーク環境を整え、グループウェアで現場と会社の情報を共有しています。作業所長が毎日、作業内容・人員配置・写真を上げ、会社全体で進捗を確認できるようにしました。パソコンが得意でない人には、得意な技術者や事務員がフォローに入る工夫もしています。同社は令和2年から4週8休に取り組み、達成していると記載されています。
事例2:写真・書類・安全書類の整理を効率化する
施工管理アプリで帳票を自動出力
事例Ⅰ-003は、北海道の建築会社(匿名、従業員30〜99人)です。背景には、現場作業の後に帳票を整理することで長時間労働が常態化していたことがありました。図面共有ツールや検査記録ツールをタブレットで使い、段階検査の結果を図面上に写真付きで整理できるようにしています。安全書類は管理システムでやりとりし、常に最新版を管理できるようになったとされています。下請も同じアプリを使うことで、書類の授受が省力化されています。
クラウドの写真管理で閉所日数が増えた例
事例Ⅰ-011の株式会社島村工業(埼玉県、従業員100〜299人)は、写真管理のクラウドサービスを導入しました。電子小黒板の情報などからAIが写真を自動で仕分け、工事写真台帳を自動で作成できるようになっています。複数人で写真を確認できるため、撮り忘れの発見や差し替えの指示がしやすくなりました。導入前後で、4週4閉所から4週6閉所になったと記載されています。写真台帳の作り方は工事写真台帳の作り方、安全書類はグリーンファイル(安全書類)とはで解説しています。
事例3:事務作業を自動化・集約する
事務の効率化では、RPA(パソコン操作の自動化ツール)や外部委託、事務担当の配置を組み合わせた事例があります。
| 会社(出典の事例番号) | 取り組み | 資料に記載された効果 |
|---|---|---|
| 株式会社橋本店(宮城県、100〜299人)働き方改革事例集Ⅲ-006 | AIで業務が集中している箇所を分析し、伝票や原価報告などをRPAで自動化。PCの自動シャットダウンも導入 | 時間外労働40時間未満の社員の割合が59%(2022年1月)から95%(2023年1月)に(PC自動シャットダウンによる残業抑制の効果として記載) |
| 神奈川県の建築会社(匿名、100〜299人)働き方改革事例集Ⅰ-014 | クラウドストレージ、iPad、電子黒板、施工管理アプリ、安全書類システムなどを導入。本社に現場事務担当者を配置 | 現場職員の時間外労働の平均が75時間から42時間に(44%減) |
| 株式会社竹延(大阪府)ICT事例集 No.2 | 施工計画書や写真整理などの書類業務を外部の専門サービスに切り出し | 写真帳の作成が1時間あたり18枚から25枚に。マクロの活用で施工計画書の共通部分の作成時間が最大97%削減 |
神奈川県の事例では、ITツールと並行して事務スタッフも増員しています。ツールだけでなく「誰が書類を担うか」を見直したことが、効果につながったと読めます。電子契約の事例は建設業の業務効率化アイデアで紹介しています。
事例4:施工のICT・遠隔臨場
施工のICT化というと大手の話に見えますが、地域の建設会社が外注に頼らず内製化で成果を出した事例も表彰されています。
- 株式会社月の輪建設工業(岡山県):建築工事の土工事で、3次元データの作成からICT建機の活用までを内製化。従来施工と比べて作業日数40%、労務人数56%の削減と記載されています(令和7年度インフラDX大賞 優秀賞)
- 有限会社礒部組(高知県):橋台工事などでICTを内製化し、従来工法と比べて約9割の省人化(11.1人・日から1.2人・日)と記載されています(同 優秀賞)
- 大日本土木株式会社(岐阜県):ウェアラブルカメラで段階確認・材料確認の立会いを遠隔で実施。回数が多い確認や時間が読めない確認で特に有効だったとしています(ICT事例集 No.11)
自治体の取り組みでは、山口県の「建設維新ICT3.0」が令和7年度インフラDX大賞の優秀賞を受けています。高額なICT建機や専門人材を必要としない「身の丈に合ったICT活用モデル」として、地方の中小建設会社でも実践できる点が評価されています。
事例5:建設会社のAI活用事例
公的な資料に載っているAI活用は、画像の解析や写真の仕分けが中心です。生成AIを使った事例も出てきています。
| 会社 | AIの使い方 | 出典 |
|---|---|---|
| 株式会社島村工業(埼玉県) | 写真管理クラウドのAIで、工事写真を自動で仕分けし台帳を作成 | 働き方改革事例集Ⅰ-011 |
| 株式会社橋本店(宮城県) | AIによる業務分析で、業務が集中している箇所を把握してからRPA化 | 働き方改革事例集Ⅲ-006 |
| 新谷建設株式会社(北海道) | ネットワークカメラの映像をAIで解析し、濃霧などの視程(見通し)を数値化。現場へ行かずに状況を確認 | ICT事例集 No.18 |
| 大日コンサルタント株式会社(岐阜県) | ベテランの知識を整理して蓄積し、生成AIのチャットで引き出せる仕組みを構築。社内の記事は3,500件以上、社員の半数以上が月10回以上使用 | 令和7年度インフラDX大賞 優秀賞 |
大日コンサルタントは建設コンサルタントで、施工会社ではありません。ただし、「業務文書をそのまま読み込ませるのではなく、共有すべき知識として整理してから生成AIに与える」という考え方は、施工会社にも参考になります。
一方で、中小の施工会社が生成AIで書類作成を効率化した事例は、今回確認した公的資料の中では多くありませんでした。これから取り組む会社は、日報や議事録など失敗しても影響が小さい書類から試すのが現実的です。進め方は建設業のAI活用ガイドやAIで業務効率化した事例もあわせてご覧ください。
事例を自社で真似するときの判断表
事例をそのまま真似しても、前提条件が違えば効果は出ません。次の表で、自社で始めやすいかを確認しましょう。費用と真似しやすさは、編集部による目安です。
| 取り組み | 初期費用の目安 | 真似しやすさ | 前提条件 | 最初の一歩 |
|---|---|---|---|---|
| 共有カレンダー・チャット | 小 | 高い | 全員がスマホを使える | 1部署で予定を共有する |
| 書類・図面のクラウド共有 | 小〜中 | 高い | フォルダの分け方と権限のルール | 1現場の図面だけ共有する |
| 写真管理のクラウド化 | 中 | 中 | 撮影・命名ルールの統一 | 1現場で試す |
| 施工管理アプリ | 中 | 中 | 協力会社の理解と教育 | 社内の検査記録から使う |
| RPA・事務の自動化 | 中 | 中 | 手順が毎回同じ業務があること | 対象業務の手順を書き出す |
| 事務担当・外部委託 | 中〜大 | 中 | 様式の統一と手順書 | 現場の書類業務を一覧にする |
| ICT施工の内製化 | 大 | 低い〜中 | 3次元データを扱える人材の育成 | 発注者の研修・体験会に参加する |
| 生成AIで書類の下書き | 小〜中 | 高い | 入力してよい情報のルール | 日報か議事録で試す |
AIでできないこと・人が担うこと
- 事例のどれが自社に合うかの最終判断(現場の実情は社内の人しかわからない)
- 協力会社や発注者との調整。事例でも、協力会社への浸透には時間がかかったと記載されている
- ツールを定着させるための社内教育。勉強会や得意な人のフォローは人が行う
AIで楽にする方法:事例を自社の試行計画に落とし込む
事例を読んだら、生成AIに自社の状況と一緒に渡し、試行計画のたたき台を作ると次の行動に移りやすくなります。事例の要約はこの記事の内容を使ってかまいません。
コピーして使えるプロンプト
あなたは中小建設会社の業務改善を支援する担当者です。 次の「参考事例」と「自社の状況」をもとに、1つの業務で試す計画を作ってください。 【参考事例】 【例:写真管理をクラウド化し、AIで写真を自動仕分け。複数人で確認でき、撮り忘れの発見がしやすくなった】 【自社の状況】 ・業種・規模:【例:建築中心、従業員25名、現場監督5名】 ・困っている業務:【例:写真整理と台帳作成に毎晩1〜2時間】 ・使っているツール:【例:デジカメ、Excel、LINE】 ・制約:【例:協力会社はITに不慣れ、予算は小さく始めたい】 【出力してほしいこと】 1. 試す業務と、試す現場の選び方 2. 2か月の試行スケジュール(週単位) 3. 効果の測り方(試行前と同じ方法で測る) 4. つまずきやすい点と対策 5. 人が判断・確認すべきこと ※事例の効果を自社にそのまま当てはめず、数字は「要確認」としてください
出力イメージ(例)
1. 試す業務:写真整理と台帳作成 試す現場:工期が2か月以上あり、所長がITに前向きな1現場 2. スケジュール 1〜2週目:撮影ルールと命名ルールを決める 3〜6週目:1現場で運用し、困りごとを毎週記録 7〜8週目:試行前後の作業時間を比べ、続けるか判断 3. 効果の測り方:写真整理にかかった時間を毎日記録 (削減時間の見込みは【要確認】) 4. つまずきやすい点:撮影ルールが守られない → 朝礼で1分だけルールを確認する 5. 人が判断すること:続けるかどうか、他の現場へ広げる順番
業務別のプロンプトは建設業のプロンプト集で紹介しています。
注意
紹介した事例は、各資料の公表時点の内容です。効果の数値は各社の記載によるもので、同じ効果を保証するものではありません。社名・取り組みの最新の状況は、各資料や各社の公式発表で確認してください。遠隔臨場やICT施工の実施は、発注者の指定・最新の要領が優先です。AIの出力は、最終的に人が確認してください。
事例を読んだ後のチェックリスト
- 自社と規模・業種が近い事例を2〜3件選んだ
- その事例の「前提条件」が自社にあるか確認した
- 自社で時間がかかっている業務を3つ書き出した
- 費用が小さく真似しやすい取り組みを1つ選んだ
- 試す現場・期間・効果の測り方を決めた
- 社内でフォローする担当者を決めた
- 生成AIに入力してよい情報のルールを決めた
建設DX・AI活用事例のよくある質問
中小の建設会社のDX事例は、どこで探せますか?
国土交通省の「建設業における働き方改革推進のための事例集」や「ICT指針に関する事例集」、インフラDX大賞の受賞者資料が参考になります。働き方改革の事例集には、従業員数などの会社概要も載っています。
小さな会社でも真似できるDXはありますか?
あります。国交省の事例集には、従業員5〜9人の会社が共有カレンダー、クラウド、チャット、オンライン会議を組み合わせた事例が載っています。費用が小さいものから始められます。
建設業でのAI活用には、どんな事例がありますか?
公的な資料では、工事写真の自動仕分け、カメラ映像のAI解析による視程の判定、業務の集中箇所のAI分析、ベテランの知識を生成AIで引き出す仕組みなどが紹介されています。
事例と同じツールを入れれば、同じ効果が出ますか?
同じ効果が出るとは限りません。事例の多くは、ツールに加えて撮影ルールの統一、事務担当の配置、社内勉強会など、運用の見直しをあわせて行っています。前提条件を確認してから取り組みましょう。
DXは何から始めればいいですか?
時間がかかっている業務を1つ選び、費用の小さい取り組みから試すのがおすすめです。効果を測ってから他の業務や現場に広げます。
まとめ
- 中小建設会社の事例は、国交省の事例集や表彰資料で出典付きで確認できる
- 成果の出ている取り組みは、情報共有・写真・書類・事務の集約など身近な業務が多い
- ICT施工も、内製化や「身の丈に合った」活用で中小が成果を出している
- AI活用は写真の仕分けや画像解析が中心で、生成AIの事例も出てきている
- 事例は前提条件を確認し、1つの業務・1つの現場で試してから広げる
自社で真似できる業務を一覧で確認しませんか
「AI化できる業務 可否判定リスト(建設業版)」では、日報・工程表・見積・発注・請求・写真整理・議事録・安全書類などの業務ごとに、AIに向くか、条件付きか、人がやるべきかを一覧にしています。事例を自社に当てはめるときの判断材料として、無料でお使いいただけます。
参考・出典(2026年9月30日確認)
- 国土交通省「建設業における働き方改革推進のための事例集」(令和5年5月)
- 国土交通省「情報通信技術を活用した建設工事の適正な施工を確保するための基本的な指針(ICT指針)に関する事例集」(令和7年3月改訂)
- 国土交通省「建設業におけるICTの導入・活用に向けた施策について」
- 国土交通省 報道発表「令和7年度 インフラDX大賞の受賞者を発表します」(令和7年12月17日)
- 国土交通省「令和7年度インフラDX大賞 受賞取組概要(工事/業務部門)」
- 国土交通省「令和7年度インフラDX大賞 受賞取組概要(地方公共団体の取組部門)」
- 国土交通省「令和7年度インフラDX大賞 受賞取組概要(i-Construction・インフラDX推進コンソーシアム会員の取組部門)」
