AIで業務効率化した建設会社の事例を見ると、成果が出ているのは「書類の下書き」「議事録や報告の清書」「社内の問い合わせ対応」など、材料がそろっていて最後に人が確認できる業務です。図面を読んで判断する仕事や、金額を決める仕事をAIに丸ごと任せた事例ではありません。
公開事例は大手ゼネコンのものが中心ですが、使い方の「型」は中小の建設会社でもそのまま応用できます。大切なのは事例の数字をまねることではなく、どの材料を渡し、何を出力させ、誰が確認するかという型をまねることです。
この記事では、各社が公式に発表している事例を出典付きで紹介し、そこから見える使い方の型を、書類・報告・見積の業務別に整理します。
この記事でわかること
- 建設会社が公式に発表しているAI活用事例と、その内容
- 事例に共通する「うまくいく条件」
- 書類・報告・見積で使える6つの使い方の型
- 事例をまねるときの判断表と、AIに向かない業務
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公開されている建設会社のAI活用事例
ここでは、企業や提供会社が公式に発表している事例のみを取り上げます。効果の数値は各社の発表値です。条件が違えば同じ結果になるとは限りません。
| 会社・発表日 | 対象業務 | 取り組みの内容 | 発表されている効果など |
|---|---|---|---|
| 大成建設(2025年11月28日) | 書類(施工計画書) | 公共工事の発注情報と社内の技術ナレッジをもとに、国土交通省書式に準拠した土木工事の全体施工計画書のドラフトを生成 | 約10分で原稿を生成。作業時間を従来比で約85%削減可能(同社発表) |
| 大成建設(提供会社Rimoの発表、2026年3月19日) | 記録(議事録) | 各現場のExcel・Wordの議事録テンプレートに沿ってAIが会議内容を出力 | 建築本部全122部署で活用。作成時間が約3時間から1時間以内になったと発表 |
| 竹中工務店(2025年8月発表) | 報告(点検レポート) | 撮影した画像・動画から、建物検査の問題箇所をAIで抽出し、レポートを作成するシステムを日本で展開 | 検査対応工数の削減を図るとしている |
| 鹿島建設(2023年8月8日) | 全社の事務(対話型AI) | Azure OpenAI Serviceを使い、社内専用の対話型AI「Kajima ChatAI」を構築 | グループ従業員約2万人が対象。入力情報が外部の学習に使われない環境と説明 |
| 大林組(2022年3月22日) | 提案(設計初期) | スケッチや3Dモデルから、ファサード(建物の外観)のデザイン案を複数生成する「AiCorb」を開発 | 顧客との対話と合意形成を早めることを目的としている |
建設DX全体の事例(ICT施工やドローンなど)は建設DX・AI活用事例で紹介しています。この記事では書類・報告・見積に絞ります。
事例に共通する3つの条件
業務も会社の規模も違いますが、公開事例を並べると共通点が見えてきます。
1. 自社の書式・お手本に合わせている
大成建設の施工計画書の事例では、発注情報に加えて社内の記載事例を材料にしています。議事録の事例でも、各現場のテンプレートに沿って出力させています。白紙から書かせるのではなく、自社の書式とお手本を渡すことが、使える出力につながっています。
2. 最後は人が確認する前提になっている
大成建設の発表では、AI出力の信頼性が低い箇所を自動で特定し、経験豊富な技術者が精査するとしています。AIは「下書きと整理」、人は「確認と判断」という分担です。
3. 入力した情報を守る環境を先に整えている
鹿島建設は、以前はChatGPTの業務利用を禁止しており、その理由を情報漏えいのリスクとしていました。そのうえで、入力情報が外部の学習に使われない社内専用の環境を整えてから運用を始めています。中小企業でも、使うサービスと入力ルールを先に決めることが出発点です。
数字で見る日本企業の生成AI活用
総務省の令和7年版情報通信白書によると、生成AIについて「積極的に活用する方針」または「活用する領域を限定して利用する方針」を定めている日本企業の割合は、2024年度調査で49.7%でした。前年度の42.7%から増えています。
一方で同白書は、中小企業では「方針を明確に定めていない」との回答が約半数を占め、大企業と比べて活用方針の決定が遅れていると指摘しています。事例をまねる前に、「どの業務で・どのサービスを・どんなルールで使うか」を決めることが、中小建設会社の最初の一歩になります。
書類・報告・見積で使える6つの型
事例から取り出した使い方を、6つの型に整理しました。どの型も「材料→AI→人の確認」の流れは同じです。
| 型 | AIに渡す材料 | AIの出力 | 建設会社での例 | 人が確認すること |
|---|---|---|---|---|
| 1. 下書き | 条件、自社のお手本、書式 | 書類の原稿 | 施工計画書、提案書、安全大会の講話 | 内容の正しさ、現場条件との一致 |
| 2. 清書・変換 | 手書き・音声メモ | 書式に沿った文章 | 作業日報、工事中の報告、施主への連絡 | 事実関係、数字 |
| 3. 要約・抽出 | 録音の文字起こし、長い資料 | 要点、決定事項、ToDo | 打合せ議事録、仕様書の要点 | 決定事項の聞き違い |
| 4. 点検 | 作成済みの書類、チェック項目 | 抜け・矛盾の指摘 | 安全書類、見積の記載漏れ | 指摘の採否 |
| 5. 転記・集計 | 日報や伝票のデータ | 表への整理、集計 | 日報集計、作業員名簿の転記 | 集計結果の妥当性 |
| 6. 説明文 | 見積明細、工程 | 相手向けのわかりやすい説明 | 見積のご説明、工程変更のお知らせ | 金額・日付・条件 |
書類での使い方
施工計画書や施工要領書は「型1 下書き」と「型4 点検」の組み合わせが基本です。過去の自社の計画書をお手本に渡し、今回の工事条件で下書きを作らせます。その後、記載項目のチェック表と照らして抜けを指摘させます。具体的な手順は施工計画書とは?AIで下書きを作る手順で解説しています。
報告・記録での使い方
日報や議事録は「型2 清書・変換」「型3 要約・抽出」「型5 転記・集計」が中心です。音声メモや録音を材料にすると、現場で文字を打つ手間も減ります。詳しくは打合せ議事録をAIで自動作成する方法をご覧ください。
見積での使い方
見積は、金額の決定を人が行う前提で「型4 点検」と「型6 説明文」に使います。過去の見積と比べた記載漏れの指摘や、発注者・施主向けの説明文づくりです。数量拾いや単価決定をAIに任せる公開事例は、書類や議事録に比べて見当たりにくいのが現状です。
AIで楽にする方法:型を使ったプロンプト
6つの型のうち、どの書類にも使える「型4 点検」のプロンプトです。ChatGPTでもClaudeでも使えます。【】を差し替えてください。
コピーして使えるプロンプト
あなたは建設会社の工務担当です。 次の【書類名】を、チェック項目に照らして点検してください。 # 出力形式 表で出力:チェック項目/記載の有無(あり・なし・不十分)/該当箇所/指摘内容 # 条件 ・書類に書かれていないことを推測で補わない ・数値や日付の矛盾があれば指摘する ・判断できない点は【要確認】とする ・最後に、優先して直すべき点を3つ挙げる # チェック項目 【例:工事概要、工程、施工方法、安全管理、品質管理、緊急連絡体制】 # 点検する書類 【書類の本文を貼り付け(個人名・電話番号は除く)】
出力イメージ(例)
| チェック項目 | 記載 | 該当箇所 | 指摘内容 | | 工事概要 | あり | 1章 | 工期の終了日が工程表と異なる【要確認】 | | 安全管理 | 不十分 | 5章 | 重機作業の立入禁止措置の記載がない | | 緊急連絡体制 | なし | ― | 連絡先一覧の添付が必要 | 優先して直す点 1. 工期の終了日をそろえる 2. 重機作業の安全対策を追記する 3. 緊急連絡体制を添付する ※説明用の例です。
書類・報告・安全の業務別プロンプトは建設業のプロンプト集に50例をまとめています。
事例をまねるときの判断表
自社の業務に事例を当てはめる前に、次の表で向き・不向きを確認してください。
| 確認すること | 当てはまる場合 | 当てはまらない場合 |
|---|---|---|
| 材料が文字・数字・写真でそろっているか | AIに向く | 先に記録の取り方を整える |
| お手本(過去の良い書類)があるか | 出力の質が安定しやすい | まず1件、人がお手本を作る |
| 出力を人が読んで直せるか | AIに向く | AIに任せない |
| 同じ作業が月に何度もあるか | 効果が出やすい | 効果は小さい |
| 誤りが重大な結果につながるか | 下書きまでにとどめ、二重確認 | 下書き〜清書まで任せやすい |
AIに向かない・任せてはいけないこと
- 現場の安全や構造に関わる最終判断
- 見積金額・契約条件の決定
- 図面からの数量拾いを完全に自動化すること(誤りが起きうるため、人の確認が必要)
- 発注者・元請の指定様式や最新の法令の確認(一次情報で人が確認する)
注意
紹介した事例の効果は各社の発表値で、自社で同じ効果が出ることを示すものではありません。書類の様式や記載項目は発注者・元請によって異なるため、発注者の指定・最新の仕様書が優先です。AIの出力は必ず人が確認してから提出してください。
自社でまねるときの進め方
- 業務を1つ選ぶ時間がかかっていて、上の判断表に当てはまる業務を選びます。
- 型を決める6つの型のどれで使うかを決めます。多くの場合、下書きか清書から始めます。
- お手本と書式を用意する過去の良い書類と自社の書式をAIに渡せる形にします。
- 入力のルールを決める使うサービスと、入力しない情報(個人名、連絡先など)を決めます。
- 試して確認手順を固める数件試し、誰が何を確認するかを決めてから広げます。
導入の全体の進め方は建設会社のAI導入の進め方、入力ルールは建設会社の生成AIセキュリティ対策で解説しています。
自社の書式や既存ツールに合わせて仕組みにしたい場合は、建設AIシフトが業務整理から仕組みの構築、担当者研修(2時間×6回)、稼働後の運用サポートまで支援します。まず1業務から始めて広げる進め方ができます。
- まねしたい事例の「型」(材料・出力・確認者)を書き出した
- 自社で対象にする業務を1つ決めた
- お手本にする過去の書類を集めた
- 使うAIサービスと入力ルールを決めた
- 出力を確認する担当者を決めた
よくある質問
Q. 中小の建設会社の公開事例はありますか?
大手ゼネコンに比べ、中小企業が出典付きで公表している事例は多くありません。ただし、書式に合わせた下書きや議事録の清書といった使い方の型は、会社の規模を問わず応用できます。
Q. 事例のような削減効果は自社でも出ますか?
わかりません。事例の数値は各社の条件での発表値です。自社では、対象業務を1つ決めて作成時間を記録し、導入前後を比べて判断するのが確実です。
Q. 大手のように専用システムを作らないと効果は出ませんか?
必須ではありません。ChatGPTやClaudeなどの法人向けサービスとプロンプトの型から始められます。件数が多く、転記や集計まで自動化したい場合に仕組み化を検討します。
Q. 見積をAIで作った事例はありますか?
見積の記載漏れの点検や、説明文づくりには使えます。一方、金額を決める作業をAIに任せた出典付きの事例は見当たりにくく、金額は人が決める前提で使うのが安全です。
Q. 社員がAIに社内情報を入れてしまうのが心配です。
鹿島建設の事例のように、使うサービスと環境を会社で決めてから使うのが基本です。入力データが学習に使われない設定や契約を確認し、入力しない情報を社内ルールで決めておきましょう。
まとめ
建設会社の公開事例に共通するのは、自社の書式とお手本を渡すこと、最後は人が確認すること、入力情報を守る環境を先に整えることの3点です。
事例の数字ではなく、「下書き」「清書・変換」「要約・抽出」「点検」「転記・集計」「説明文」の6つの型をまねるのが近道です。まずは自社の業務を1つ選び、判断表で向き・不向きを確かめてから始めましょう。
自社の業務、どれがAIに向くか一覧で確認できます
「AI化できる業務 可否判定リスト(建設業版)」では、日報・工程表・見積・発注・請求・写真整理・議事録・安全書類などの業務ごとに、AIに向くか/条件付きか/人がやるべきかを一覧にしています。
参考・出典(2026年9月30日確認)
- 大成建設「最新生成AIを活用した土木工事の『全体施工計画書作成支援システム』を開発」(2025年11月28日)
- Rimo合同会社 プレスリリース「大成建設、『Rimo Voice』でAI議事録が建築本部全122部署に定着」(2026年3月19日、PR TIMES)
- 竹中工務店「AIを活用した巡回レポートシステム『Façade Inspector』及び『Interior Inspector』を日本展開」(2025年)
- 鹿島建設「グループ従業員2万人を対象に専用対話型AI『Kajima ChatAI』の運用を開始」(2023年8月8日)
- 大林組「建築設計の初期段階の作業を効率化する『AiCorb®』を開発」(2022年3月22日)
- 総務省「令和7年版 情報通信白書」企業におけるAI利用の現状
