建設会社のAI導入は、「会社全体に一気に入れる」のではなく、自動化に向く業務を1つ選び、4〜8週間で試して広げる進め方が現実的です。最初の業務選びで成否の多くが決まります。
自動化できる業務の見分け方は、「材料が文字・数字でそろっているか」「毎回同じ手順か」「出力を人が確認できるか」の3点が基本です。日報、議事録、見積の説明文、書類の点検などは向いています。現場の安全判断、金額の決定、構造に関わる判断は人がやるべき業務です。
この記事では、中小の建設会社がAIを導入するときの見分け方を判断表で示し、最初の1業務の選び方と、4〜8週間の進め方の例を紹介します。
この記事でわかること
- 建設会社のAI導入でよくあるつまずきと対策
- 自動化できる業務・できない業務の見分け方(判断表)
- 最初の1業務を選ぶための点数表
- 4〜8週間で試して広げる進め方の例
- 社内ルール・研修・支援制度の押さえどころ
業務ごとの判定をまとめた「AI化できる業務 可否判定リスト(建設業版)」を無料で配布しています。
AI導入でよくあるつまずき
総務省の令和7年版情報通信白書は、日本の中小企業では生成AIの活用方針を「明確に定めていない」との回答が約半数を占めると指摘しています。方針がないまま個人任せで使い始めると、次のようなつまずきが起きがちです。
| よくあるつまずき | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 一部の人しか使わない | 使う業務が決まっていない | 対象業務を1つに絞り、全員で同じ型を使う |
| 出力が使えず手直しが多い | 自社の書式やお手本を渡していない | 過去の良い書類をお手本として渡す |
| 情報漏えいが心配で止まる | 使うサービスと入力ルールがない | 会社でサービスを決め、入力しない情報を決める |
| 効果がわからず続かない | 導入前の時間を測っていない | 導入前に作成時間を記録しておく |
| AIに任せすぎてミスが出る | 確認の手順がない | 誰が何を確認して提出するかを決める |
どれも技術の問題ではなく、進め方の問題です。順番を守れば、ITに詳しい社員がいない会社でも避けられます。
自動化できる業務・できない業務の見分け方
業務を見分けるときは、次の5つの質問に答えてみてください。「はい」が多いほど、AIに向いています。
| 質問 | 「はい」の場合 | 「いいえ」の場合 |
|---|---|---|
| 1. 材料(メモ・データ・写真)がそろっているか | AIに渡せる | 先に記録の取り方を決める |
| 2. 毎回ほぼ同じ手順・書式か | 型にしやすい | 手順の整理から始める |
| 3. 出力を人が読んで確認・修正できるか | 任せやすい | AIに任せない |
| 4. 月に何度も発生するか | 効果が大きい | 効果は小さい |
| 5. 誤りがあっても提出前に気づけるか | 下書き〜清書まで任せられる | 下書きまでにとどめ、二重確認 |
業務別の判定の例
建設会社の代表的な業務を、上の質問に沿って判定した例です。会社の状況によって変わるため、目安として見てください。
| 業務 | 判定 | AIに任せる部分 | 人が残す部分 |
|---|---|---|---|
| 作業日報・週報 | 向く | 音声メモの清書、集計、週報の下書き | 数字・事実の確認 |
| 打合せ議事録 | 向く | 文字起こしの要約、決定事項とToDoの抽出 | 決定事項の聞き違いの確認 |
| 見積の説明文・記載漏れ点検 | 向く | 説明文の作成、過去見積との比較 | 金額・数量の決定 |
| 安全書類・提出書類 | 条件付き | 転記、記載漏れの点検 | 内容の正しさ、最新様式の確認 |
| 工程表 | 条件付き | たたき台、変更時の引き直し案 | 工程の妥当性、現場条件 |
| 施工計画書 | 条件付き | お手本からの下書き、項目の点検 | 施工方法・安全対策の判断 |
| 現場写真の整理 | 条件付き | 仕分け、説明文の下書き | 写っている内容・数量の確認 |
| 図面からの数量拾い | 人がやる(補助のみ) | 拾い出し結果の点検の補助 | 数量の確定 |
| 安全・構造の最終判断 | 人がやる | (任せない) | すべて |
| 近隣・施主のトラブル対応 | 人がやる | 経緯の時系列整理まで | 対応方針・謝罪・補償 |
業務ごとの詳しい解説は建設業のAI活用ガイド、他社の使い方の型はAIで業務効率化した事例で紹介しています。
最初の1業務の選び方
向いている業務が複数あるときは、点数をつけて比べます。「時間がかかっている」×「型にしやすい」×「失敗しても影響が小さい」業務が、最初の1業務に向いています。
| 候補業務 | 月の発生回数 | 1回の時間 | 型にしやすさ(1〜3) | 失敗時の影響の小ささ(1〜3) | 合計点 |
|---|---|---|---|---|---|
| 作業日報の清書・集計 | 3点 | 2点 | 3 | 3 | 11 |
| 打合せ議事録 | 2点 | 3点 | 3 | 2 | 10 |
| 見積の説明文 | 2点 | 2点 | 2 | 2 | 8 |
| 施工計画書の下書き | 1点 | 3点 | 2 | 1 | 7 |
※説明用の例です。発生回数と時間は、多い・長いほど高い点数(1〜3点)にします。実際の点数は自社の記録で付けてください。
点数が同じ場合は、担当者が前向きな業務を選びます。最初の成功例が、社内で広げるときの説得材料になるからです。
4〜8週間の進め方の例
1業務を対象にした場合の進め方の例です。業務の複雑さや連携するツールによって期間は変わります。
- 1〜2週目:業務を整理する今のやり方、使っている書式、1回あたりの時間を記録します。お手本になる過去の書類を3〜5件集めます。
- 2〜3週目:ルールと型を決める使うAIサービス、入力しない情報、プロンプトの型、確認する人を決めます。
- 3〜5週目:小さく試す1つの現場や1人の担当者で試し、出力の手直し量を記録します。プロンプトやお手本を改善します。
- 5〜6週目:仕組みにする既存のExcelやスプレッドシート、LINE、メールとのつなぎ方を決め、手作業の転記を減らします。
- 6〜8週目:担当者に広げる使い方を研修し、確認の手順を定着させます。導入前の時間と比べ、次の業務に広げるか判断します。
| 時期 | 決めること・作るもの | 確認の目安 |
|---|---|---|
| 1〜2週目 | 業務の手順メモ、作成時間の記録、お手本 | 今の時間がわかっている |
| 2〜3週目 | 利用ルール、プロンプトの型 | 入力しない情報が決まっている |
| 3〜5週目 | 試行結果、改善したプロンプト | 手直しが減ってきている |
| 5〜6週目 | 既存ツールとのつなぎ方 | 転記の手作業が減っている |
| 6〜8週目 | 研修、確認手順、効果の振り返り | 担当者が自分で使えている |
AIで楽にする方法:業務の棚卸しをAIに手伝わせる
最初の1業務を選ぶ前の「棚卸し」もAIで効率化できます。社員に聞き取った業務メモを貼り付けて、判定表の下書きを作らせます。
コピーして使えるプロンプト
あなたは建設会社の業務改善担当です。 次の業務メモをもとに、AIで自動化できる業務の判定表を作ってください。 # 判定の基準 ・材料(メモ・データ・写真)がそろっているか ・毎回ほぼ同じ手順・書式か ・出力を人が確認・修正できるか ・月に何度も発生するか ・誤りがあっても提出前に気づけるか # 出力形式 表:業務名/月の回数/1回の時間/判定(向く・条件付き・人がやる)/理由/AIに任せる部分/人が残す部分 最後に「最初に取り組む候補」を1つ選び、理由を3行で書く # 条件 ・メモにない数字は推測せず【要確認】と書く ・安全や構造の判断、金額の決定は「人がやる」とする # 業務メモ 【例:工務・佐藤:日報の清書と集計 毎日30分/現場代理人:打合せ議事録 週2回 各1時間 …】
出力イメージ(例)
| 業務名 | 月の回数 | 1回の時間 | 判定 | 理由 | | 日報の清書と集計 | 約20回 | 30分 | 向く | 書式が決まっており毎日発生 | | 打合せ議事録 | 約8回 | 1時間 | 向く | 録音があれば要約できる | | 見積の金額決定 | 【要確認】 | 【要確認】 | 人がやる | 金額の判断を含むため | 最初に取り組む候補:日報の清書と集計 ・発生回数が最も多い ・書式が決まっていて型にしやすい ・提出前に上長が確認する流れがある ※説明用の例です。
社内ルール・安全の押さえどころ
AI導入では、使い始める前に社内ルールを決めることが欠かせません。
総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(令和8年3月31日)は、AIを事業で利用する事業者を「AI利用者」と位置づけ、提供者が意図する範囲での適正な利用などを求めています。建設会社がAIサービスを業務で使う場合も、このAI利用者に当たります。
個人情報保護委員会は、個人情報を含むプロンプトを入力する場合は、利用目的の達成に必要な範囲内か十分に確認するよう注意喚起しています。作業員名簿や施主の情報を扱う建設会社では、特に注意が必要です。
- 使うAIサービスを会社で決める(個人アカウントの業務利用を避ける)
- 入力データが学習に使われない設定・契約を確認する
- 個人名・連絡先・健康情報など、入力しない情報を決める
- AIの出力は必ず人が確認してから外部に出す
ルールの作り方は生成AI社内ガイドラインの作り方、安全対策は建設会社の生成AIセキュリティ対策で解説しています。
研修と支援制度の使い方
AIを定着させるには、担当者が自分で使えるようになる研修が必要です。研修の選び方は生成AI研修の選び方で紹介しています。
研修費用には、厚生労働省の人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)が使える場合があります。厚労省のパンフレットでは、令和8年度までの時限措置であること、実訓練時間数が10時間以上であることなどが要件として示されています。同パンフレットは、AI研修費用は対象経費だが、AIツールの導入費用は対象経費ではないとしています。また、助成金の申請手続きの代行は社会保険労務士の独占業務です。生成AI研修の対象範囲は見直しが行われているため、最新の要件は厚労省の資料と都道府県労働局で確認してください。詳しくはAI研修で使える助成金をご覧ください。
ITツールの導入には、中小企業庁の「デジタル化・AI導入補助金」(旧:IT導入補助金)があります。中小企業庁は、令和7年度補正予算事業から名称を変更したと公表しています。公募要領や対象ツールは年度ごとに変わるため、公式サイトで確認してください。
建設AIシフトでは、業務整理から仕組みの構築、担当者研修(2時間×6回)、稼働後の運用サポートまでを支援します。研修は12時間で、OFF-JT10時間以上の要件を満たす構成です。助成金の申請は社労士の紹介と資料準備の補助で支援します。
注意
業務別の判定や点数表、期間は説明用の例です。実際の判定は自社の業務と記録にもとづいて行ってください。書類の様式は発注者・元請によって異なり、発注者の指定・最新の仕様書が優先です。助成金・補助金の要件は変わることがあるため、必ず最新の一次情報を確認してください。AIの出力の最終確認は人が行います。
- 導入の目的と対象業務を1つに決めた
- 5つの質問で業務を判定した
- 対象業務の今の作成時間を記録した
- お手本になる過去の書類を集めた
- 使うAIサービスと入力ルールを決めた
- 出力を確認する担当者を決めた
- 4〜8週間の予定と振り返りの日を決めた
よくある質問
Q. 中小の建設会社でもAIを導入できますか?
できます。大きなシステムは必須ではなく、法人向けのAIサービスとプロンプトの型から始められます。対象業務を1つに絞れば、ITに詳しい社員がいなくても進められます。
Q. 最初はどの業務から始めるのがよいですか?
発生回数が多く、書式が決まっていて、提出前に人が確認できる業務です。多くの建設会社では、作業日報や打合せ議事録が候補になります。
Q. AI導入にはどのくらいの期間がかかりますか?
1業務を対象にした場合、業務整理から試行、担当者への展開まで4〜8週間が目安です。プロンプトだけで使う場合は、その日から試せます。
Q. AIに任せてはいけない業務はありますか?
現場の安全や構造に関わる最終判断、見積金額や契約条件の決定、トラブル対応の方針は人が行うべき業務です。AIは下書きや整理に使い、判断は人が行います。
Q. 導入の効果はどう測ればよいですか?
導入前に対象業務の1回あたりの作成時間と手直しの量を記録し、導入後と比べます。時間だけでなく、転記ミスや提出の遅れが減ったかも確認すると判断しやすくなります。
Q. 助成金はAIツールの費用にも使えますか?
人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)について、厚労省のパンフレットはAI研修費用は対象経費、AIツールの導入費用は対象外としています。ツールの導入は、デジタル化・AI導入補助金など別の制度を確認してください。
まとめ
建設会社のAI導入は、自動化に向く業務を1つ選び、4〜8週間で試して広げるのが現実的です。見分け方の基本は、材料がそろっているか、同じ手順か、人が確認できるかの3点です。
始める前に作成時間を記録し、使うサービスと入力ルール、確認の手順を決めておきましょう。安全や金額の判断は人が行い、AIは下書きと整理に使うことで、無理なく定着させられます。
どの業務からAI化すべきか、一覧で判定できます
「AI化できる業務 可否判定リスト(建設業版)」では、日報・工程表・見積・発注・請求・写真整理・議事録・安全書類などの業務ごとに、AIに向くか/条件付きか/人がやるべきかを一覧にしています。最初の1業務選びにお使いください。
