生成AI研修は、受講した人が自分の担当業務でAIを使える状態になるかで選ぶのが基本です。建設会社なら、作業日報・工程表・見積書など、受講者が実際に作っている書類を題材にした研修が向いています。AIの概論やツールの操作説明だけで終わる研修は、現場で使われずに終わりがちです。
助成金を使う場合も同じ考え方が必要です。厚生労働省の人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)では、令和8年8月3日以降の計画届から、生成AI研修も具体的な業務に直結する内容でなければ対象外になりました。
この記事では、生成AI研修・DX研修の種類と選び方を判断表で整理し、建設会社向けのカリキュラム例(2時間×6回)を紹介します。AIにできないことや、研修だけでは解決しないことも正直にお伝えします。
この記事でわかること
- 生成AI研修・DX研修の種類と、それぞれ向いている目的
- 研修で失敗しやすいパターンと、選ぶときの判断表
- 建設会社向けのカリキュラム例(2時間×6回)
- 助成金を使う場合に押さえたい令和8年8月3日からの変更点
- AIにできないこと・人が確認すべきこと
研修から仕組みづくりまで、AI導入の全体像を資料にまとめました。
生成AI研修・DX研修とは|種類と向いている目的
生成AI研修は、ChatGPTやClaudeなどの生成AI(文章や表を作るAI)を業務で使う方法を学ぶ研修です。DX研修はもう少し広く、デジタル技術で業務やビジネスのやり方を変える考え方や進め方を学ぶ研修を指します。
厚生労働省の助成金パンフレットでは、DXを、デジタル技術を活用して業務の効率化を図ることや、製品・サービス・ビジネスモデル、業務そのものや組織を変革することなどと説明しています。生成AI研修は、そのための手段のひとつと考えるとわかりやすいでしょう。
| 研修の形 | 向いている目的 | 注意したい点 |
|---|---|---|
| eラーニング(動画・自習) | 全社員に基本的な知識や社内ルールを広く伝える | 自社の書類に当てはめる練習が不足しがち。質問できない |
| 集合研修・1日セミナー | 経営層や管理職が、活用の全体像と判断のポイントをつかむ | 1回きりだと、職場に戻ってから使い続ける仕組みが残りにくい |
| オンラインのライブ研修(質疑応答あり) | 現場と事務所の人が、移動せずに少人数で練習する | カメラ・音声・画面共有の環境を事前に確認する必要がある |
| 複数回の実務型研修 | 担当者が自分の業務の型を作り、回をまたいで試して直す | 受講者の業務時間の確保と、上司の理解が必要 |
誰に受けさせるかで内容を変える
同じ「生成AI研修」でも、受講者の役割によって学ぶべきことが違います。IPA(情報処理推進機構)は、すべてのビジネスパーソン向けの「DXリテラシー標準」と、DXを推進する人材向けの「DX推進スキル標準」を分けて示しています。社内でも、経営層・推進担当・現場の実務担当の3層に分けて考えると、研修の選び間違いを防げます。
生成AI研修で失敗しやすい5つのパターン
研修そのものの評判がよくても、翌月には誰も使っていない、ということは珍しくありません。よくある原因は次の5つです。
- 概論と事例紹介で終わるAIの仕組みや他社事例は理解できても、「自分の日報にどう使うか」がわからないまま終わります。
- 題材が他業種の書類営業メールや企画書を題材にした研修は、施工記録や工程表を扱う建設会社には置きかえにくいです。
- 全社員に1回だけ一度に大人数で受けると、質問や個別の試行ができません。使い方が定着しないまま終わります。
- 社内ルールがない何を入力してよいかが決まっていないと、受講者は不安で使えません。逆に、図面や個人情報をそのまま入れてしまう恐れもあります。
- 研修後の受け皿がないプロンプトの保存場所や相談先がないと、使い方が人に依存し、異動や退職で途切れます。
社内ルールの作り方は生成AI社内ガイドラインの作り方、情報漏えいの考え方は建設会社の生成AIセキュリティ対策で解説しています。
生成AI研修の選び方|判断表
研修会社の説明を聞くときは、次の表の「確認する質問」をそのまま使ってください。「注意したいサイン」が多い研修は、目的と合っていない可能性があります。
| 観点 | 確認する質問 | 良いサイン | 注意したいサイン |
|---|---|---|---|
| 題材 | どの書類・業務を題材にしますか | 日報、工程表、見積書など受講者の担当業務で練習する | 汎用的なプロンプトの書き方が中心 |
| 受講者 | 誰が受ける前提の内容ですか | 職種・担当業務ごとに内容を合わせる | 全社員に同じ内容 |
| 回数と間隔 | 何回、どのくらいの間隔ですか | 複数回に分け、回の間に職場で試せる | 1回きり、または詰め込み |
| 成果物 | 研修後に手元に何が残りますか | 業務別のプロンプトや手順書が残る | 受講証明とスライドだけ |
| ルール | 入力してよい情報の扱いを扱いますか | 社内ルールと、個人情報・機密の扱いを学ぶ | セキュリティの話がない |
| 限界の説明 | AIに向かない業務も説明しますか | できないこと・人が確認すべきことを明示する | 何でも自動化できると説明する |
| 研修後 | 質問や改善の相談はできますか | 運用中の相談窓口や見直しの機会がある | 研修で終わり |
| 助成金 | 助成金の要件をどう説明していますか | 最新の要件を示し、判断は労働局と社労士に委ねる | 「実質無料」「必ず受給できる」とうたう |
建設会社向けカリキュラム例(2時間×6回)
ここでは、現場代理人や工務・事務担当が、担当書類をAIで作れるようになることを目的としたカリキュラム例を紹介します。1回2時間×6回(計12時間)で、回の間に職場で試し、次の回で直す流れです。
| 回 | テーマ | 練習の題材(例) | 終了時に手元に残るもの(例) |
|---|---|---|---|
| 第1回 | 担当業務の整理とAIの使いどころ | 受講者が担当する書類と作業時間の書き出し | AIで下書きする書類・人が確認する箇所の一覧 |
| 第2回 | 音声メモ・写真メモから作業日報を作る | 研修用のサンプルメモと日報様式 | 日報作成の手順とプロンプト |
| 第3回 | 日報から週報・月報をまとめる | サンプルの日報1週間分 | 週報の集計プロンプトと確認リスト |
| 第4回 | 工程表の変更案と関係者への連絡文 | サンプルの工程と変更条件 | 工程変更の検討手順と連絡文の型 |
| 第5回 | 見積・発注書類の下書きと点検 | 過去書類を加工したサンプル | 項目の抜け漏れを点検するプロンプト |
| 第6回 | 社内ルールと運用の決めごと | 入力してよい情報・保存場所・相談先 | 自部署の運用メモ(プロンプト置き場、確認者) |
※説明用の例です。扱う書類や順番は、会社の業務と受講者に合わせて組み替えます。
練習では、実際の顧客名や個人情報を消したサンプル書類を使うのが安全です。また、厚生労働省のQ&Aでは、研修中に自社の業務マニュアル等を題材にして実務で使うツールを作る場合、助成金の対象外となる可能性があるとされています。助成金を使うなら、研修用の題材で技能を身につける設計にしておくと整理しやすくなります。
建設AIシフトの担当者研修も、この考え方で2時間×6回の構成にしています。研修の前に業務を整理し、研修後は運用サポートで改善を続ける流れです。
助成金を使う場合に押さえたいこと
生成AI研修には、人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)が使える場合があります。令和8年度末までの時限措置です。中小企業の場合、経費助成率は75%、賃金助成は1人1時間1,000円とされています。
厚生労働省の変更点リーフレットでは、令和8年8月3日以降に提出する計画届について、次のように例示しています。
| 判断 | リーフレットの例 |
|---|---|
| 助成対象 | 生成AIを活用して、商品提案書の構成案作成・文章生成・修正方法を学ぶ営業担当者向けの訓練 |
| 助成対象外 | 生成AIを利用するために、汎用的なプロンプトの作り方を学ぶ訓練 |
| 助成対象外 | DXの概念、デジタル技術の概要、データ活用の考え方を学ぶ訓練 |
このほか、実訓練時間10時間以上のOFF-JTであること、訓練開始日の6か月前から1か月前までに計画届を出すこと、eラーニングは1人1年度1回までになったことなどの要件があります。AIツールの導入費用は対象経費ではありません。要件と申請の流れはAI研修で使える助成金、ほかの制度との比較はリスキリングに使える助成金まとめをご覧ください。
申請書類の作成・提出代行を報酬を得て行えるのは社会保険労務士です。建設AIシフト(株式会社Digital&)は申請代行は行わず、社労士のご紹介と、カリキュラムなど研修側の資料準備の補助まで対応します。
AIにできないこと・人が確認すべきこと
研修で「AIに任せてよい範囲」と「人が判断する範囲」を最初に線引きしておくと、現場の不安が減ります。建設会社の書類業務では、次の点は人の確認が欠かせません。
- 数値や数量の正しさ:AIは計算や転記を誤ることがあります。見積金額や数量は必ず元データと照合します。図面からの数量拾いを完全に自動化するのは、現時点では難しい作業です。
- 法令・様式の最終判断:安全書類や提出書類は、発注者・元請の指定や最新の法令が優先です。AIの説明をそのまま根拠にしません。
- 現場の事実:天候、出来形、ヒヤリハットなどの事実は、現場の人の記録がもとになります。AIは記録を整えるだけです。
- 入力する情報の選別:顧客名・個人情報・図面など、入力してよいかは社内ルールで決め、人が判断します。
- もっともらしい誤り:生成AIは事実と異なる内容をもっともらしく書くことがあります。出典や根拠が必要な文書は人が確かめます。
AIに向く業務・向かない業務の見分け方は建設会社のAI導入の進め方で詳しく紹介しています。
AIで楽にする方法|研修前の業務棚卸し
研修の効果を上げるには、受講者が「何の書類に、どれくらい時間を使っているか」を事前に書き出しておくことが近道です。次のプロンプトで、箇条書きのメモを研修の題材候補に整理できます。
コピーして使えるプロンプト
あなたは建設会社の業務改善を支援するアシスタントです。 次のメモは、ある受講者の1週間の書類業務です。 生成AI研修で扱う題材の候補を整理してください。 【職種】例:現場代理人(土木) 【担当している書類と作業のメモ】 例: ・作業日報 毎日 手書きメモから事務所でExcelに入力 ・週報 金曜 日報を見返して元請へ ・工程表 変更のたびに引き直し、協力会社へ電話とLINE ・打合せ記録 月2回 録音を聞き直してWordで作成 次の表を作ってください。 | 書類 | 頻度 | 今の作り方 | AIで下書きできそうな部分 | 人が必ず確認する部分 | 研修の題材にする優先度(高・中・低) | 最後に、研修で最初に扱うとよい書類を2つ選び、理由を3行で書いてください。 時間や効果の数値は推測で書かないでください。
出力イメージ(例)
| 書類 | 頻度 | AIで下書きできそうな部分 | 人が必ず確認する部分 | 優先度 | |------|------|--------------------------|----------------------|--------| | 作業日報 | 毎日 | メモから所定の項目への整理 | 人員・数量・天候の事実 | 高 | | 週報 | 週1 | 日報の要約と翌週の予定案 | 元請への報告事項 | 高 | | 工程表の変更連絡 | 不定期 | 協力会社向け連絡文の下書き | 日程と工程の判断 | 中 | | 打合せ記録 | 月2回 | 文字起こしの要点整理 | 決定事項と宿題の担当 | 中 | 最初に扱う書類:作業日報、週報 理由:頻度が高く、毎回同じ型で作るため練習の成果を すぐ試せます。日報を整えると週報の材料にもなります。 ※説明用の例です。
出力は研修の題材を決めるたたき台です。優先度は、研修担当と受講者の上司が話し合って決めてください。日報の作り方は建設業の作業日報テンプレートと書き方も参考になります。
注意
助成金の要件は、2026年9月30日時点で確認した厚生労働省の公表資料に基づきます。制度は変わることがあるため、申請前に最新のパンフレットを確認し、労働局または社労士に相談してください。研修の効果は、受講者の業務内容や運用の仕方で変わります。AIの出力は下書きとして扱い、最終確認は人が行ってください。
研修会社を選ぶ前のチェックリスト
- 研修の目的を「どの書類を、誰が、AIで下書きできるようにするか」で書き出した
- 受講者を職種・担当業務ごとに分けた
- 研修で使うサンプル書類(顧客名・個人情報を消したもの)を用意できる
- 入力してよい情報など、社内ルールの案がある(またはルールも研修で扱う)
- 研修の回数・間隔と、受講者の業務時間の確保を上司と合意した
- 研修後に残る成果物(プロンプト・手順書)と保存場所を決めた
- AIに向かない業務の説明があるか、研修会社に確認した
- 助成金を使う場合、最新の要件と計画届の期限を確認した
よくある質問
生成AI研修は何時間くらい必要ですか?
目的によります。担当業務で使えるようになることが目的なら、1回で詰め込むより、複数回に分けて職場で試す時間をはさむ形が向いています。この記事では2時間×6回(計12時間)の例を紹介しています。助成金の事業展開等リスキリング支援コースは、実訓練時間10時間以上が要件です。
DX研修と生成AI研修の違いは何ですか?
DX研修は、デジタル技術で業務やビジネスのやり方を変える考え方や進め方を広く学ぶ研修です。生成AI研修は、その手段のひとつである生成AIを業務で使う方法を学ぶ研修です。
生成AI研修に助成金は使えますか?
人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)が使える場合があります。ただし令和8年8月3日以降の計画届では、具体的な業務に直結する内容であることが必要で、汎用的なプロンプトの作り方を学ぶ研修は対象外の例とされています。
社員全員が受けるべきですか?
全員に同じ内容を一度に受けさせるより、まず書類業務の多い担当者から始めるのが現実的です。全社員向けには、入力してよい情報などの社内ルールを短時間で伝える形も考えられます。
ITに詳しくない社員でも受講できますか?
生成AIは日本語で指示できるため、専門知識がなくても始められます。ふだん使っている書類を題材にすると、ITに詳しくない人でも使いどころをつかみやすくなります。
まとめ
- 生成AI研修は、受講者が担当業務でAIを使える状態になるかで選びます。
- 建設会社は、日報・工程表・見積など自社の書類を題材にした、複数回の研修が向いています。
- 判断表で、題材・受講者・成果物・ルール・研修後の支援を確認しましょう。
- 助成金を使う場合、令和8年8月3日以降は具体的な業務に直結する内容であることが必要です。
- 数値・法令・現場の事実・入力情報の選別は、人が確認します。
研修から運用まで、AI導入の進め方を資料で確認
「建設会社のためのAI書類自動化ガイド(全24ページ)」では、自動化できる業務の一覧、導入スケジュール、料金と使える支援制度、セキュリティの考え方をまとめています。研修の検討と合わせて、社内の検討資料としてお使いください。
