見積書をAIで作るときは、AIに金額まで出させるのではなく、過去の見積から「項目と数量の下書き」を作らせ、金額はExcelの数式で計算するのが安全な進め方です。AIは似た工事の見積を探したり、抜けている項目を指摘したりするのが得意です。一方で、文章として出した金額は計算の根拠を追いにくく、単価や料率の最新値も知りません。
手順は5つです。①過去の見積をデータにする、②似た案件を探す、③項目の下書きを作る、④金額はExcel側で計算する、⑤人が確認する。この記事では、各ステップの指示文と出力イメージ、AIに任せる範囲・任せない範囲、建設業法第20条や法定福利費の明示との関係を、国土交通省の資料(2026年10月1日確認)をもとに解説します。
見積書の書き方そのもの(鑑・内訳書・明細書の構成や見積条件の書き方)は建設業の見積書の書き方とテンプレートで解説しました。この記事は、AIを使った下書きの仕組みづくりに絞ります。
この記事でわかること
- 見積書づくりで、AIに任せる範囲と任せない範囲(金額計算をさせない理由)
- 過去見積をAIが使える形にデータ化する方法と列の設計
- 似た案件の検索、項目の下書き、Excelでの金額計算の指示文と出力イメージ
- 建設業法第20条と、法定福利費を内訳で示すときの計算の置き場所
- Claude Codeで過去見積のフォルダを一括でデータ化する方法
内訳の作り方、法定福利費の明示、過去見積からの下書きを1冊にまとめました。
AIに任せる範囲・任せない範囲
見積書の作業を細かく分けると、AIが得意な部分と、人とExcelが持つべき部分がはっきりします。
| 作業 | 担当 | 理由 |
|---|---|---|
| 過去見積を表の形にそろえる(データ化) | AI | PDFやバラバラのExcelから、品名・数量・単位などを抜き出して並べ直すのが得意 |
| 似た案件を探す | AI | 工種・規模・構造・条件の近さを文章から判断できる |
| 項目(工種・品名・仕様)の下書き | AI | 過去見積と今回の条件の違いから、追加・削除すべき項目を挙げられる |
| 数量の計算式の案 | AI(式の提案まで) | 「面積×係数」などの式は出せるが、図面からの拾い出しは人が確認する |
| 単価の決定 | 人 | 仕入価格・労務単価・市況は会社と時期で違い、AIは最新値を知らない |
| 金額の計算(数量×単価、合計、法定福利費) | Excel | 数式なら根拠が残り、検算と修正ができる |
| 値引き・最終金額・提出の判断 | 人 | 利益と取引関係の判断は経営判断 |
金額計算をAIにさせない3つの理由
- 根拠が残らない:チャットの文章で出た合計は、どの数字を足したかを後から追いにくく、再現もできません。見積書は当初と最終を比べて説明する場面があるため、計算の過程が残る形にしておく必要があります。
- 間違いに気づきにくい:AIは誤った数字も、もっともらしい表の形で出すことがあります。行数が多い見積では、1行の誤りが合計を狂わせます。
- 単価と料率が古い:保険料率や労務単価は年度ごとに見直されます。AIが覚えている値を使うと、古い数字が混ざるおそれがあります。
Claudeのファイル作成・分析機能のように、AIがプログラムを動かして計算する方法もあります。その場合も、完成した見積ファイルに数式が残っていることを条件にすると、人が検算できます。
見積書で押さえるルール:建設業法第20条と法定福利費
AIで下書きを作る前に、見積書に何を書く必要があるかを確認しておきます。改正建設業法は2025年12月12日に完全施行され、見積書の記載事項が明記されました。
| ルール | 内容(国交省資料の要約) | AI下書きへの反映 |
|---|---|---|
| 建設業法第20条第1項 | 工事の種別ごとの材料費、労務費、必要経費(法定福利費、安全衛生経費、建退共掛金)などを記載した見積書を作るよう努める(努力義務) | 下書きの項目に「経費区分」の列を必ず持たせる |
| 同条第2項 | 見積書の材料費等は、通常必要と認められる額を著しく下回ってはならない | 過去の単価から大きく下げた行をAIに一覧で指摘させる |
| 同条第6項 | 注文者は、材料費等が著しく下回るような見積の変更を求めてはならない | 当初見積と変更後の差分を記録しておく |
| 法定福利費の計算 | 法定福利費=労務費×料率の合計(事業主負担分) | 料率は人がExcelのセルに入れ、AIには値を作らせない |
| 見積書の保存 | 国交省の書き方ガイドは、当初見積書と最終見積書の両方の保存を求め、電子媒体での作成を推奨 | 過去見積のデータ化が、そのまま保存と比較の土台になる |
国交省の書き方ガイドでは、法定福利費の事業主負担分の対象として、雇用保険、健康保険、介護保険、厚生年金保険、子ども・子育て拠出金が挙げられています。また、国交省の「法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順」は、労務費総額に法定保険料率を掛ける方法のほか、工事費に占める平均的な割合や、数量当たりの平均的な法定福利費を使う方法も示しています。
料率は年度ごとに変わるため、料率は「料率」シートに人が入力し、確認日を書く運用にします。計算の詳しい方法は法定福利費の計算方法と見積書への書き方、労務費の基準は標準労務費とはで解説しています。
AIで見積書の下書きを作る5つの手順
- 過去見積をデータにする過去の見積書(Excel・PDF)を、1行1明細の表にそろえます。AIに抜き出しを任せられます。
- 似た案件を探す今回の工事条件を伝え、過去見積の中から近い案件を3件ほど選ばせます。選んだ理由も出させます。
- 項目の下書きを作る似た案件の明細をもとに、今回の工事の項目・仕様・数量の式の案を作らせます。単価と金額の欄は空けたままにします。
- 金額はExcelで計算する下書きを見積用のExcelに貼り、単価を人が入れます。金額・小計・法定福利費・合計は数式で計算します。
- 人が確認する数量の根拠、単価、見積条件、除外事項を確認し、最終金額を決めます。AIには抜けや矛盾の指摘だけを頼みます。
AIで楽にする方法:各ステップの指示文と出力イメージ
ステップ1:過去見積をデータにする
過去の見積書は、会社ごと・年ごとに書式が違うことが多く、そのままでは検索も比較もできません。まず次の列にそろえます。※列は説明用の例です。
| 列 | 内容 | 入力の例 |
|---|---|---|
| 見積No・見積日 | 元の見積書を特定する番号と日付 | E-2025-041/2025/6/12 |
| 工事種別・構造・規模 | 似た案件を探すための条件 | 外壁塗装/RC造3階/塗装面積420㎡ |
| 工種・品名・仕様 | 明細の中身 | 下塗り/シーラー○○【要確認】 |
| 数量・単位・数量の根拠 | 数量と、その出し方 | 420/㎡/立面図から算出 |
| 単価・金額 | 当時の値(参考用) | 元の見積書の値のまま |
| 経費区分 | 材料費・労務費・法定福利費・建退共掛金・安全衛生経費・その他 | 材料費 |
| 受注結果・条件メモ | 受注/失注、足場支給などの条件 | 受注/足場は元請支給 |
コピーして使えるプロンプト
添付した過去の見積書(【E-2025-041.pdf】)を、次の列の表に変換してください。 列:見積No、見積日、工事種別、構造・規模、工種、品名・仕様、数量、単位、単価、金額、経費区分、条件メモ 【ルール】 ・見積書に書かれている値だけを使い、推測で埋めない。読み取れない値は「読取不可」とする ・経費区分は「材料費/労務費/法定福利費/建退共掛金/安全衛生経費/その他」から選ぶ。判断できない行は「要確認」 ・「一式」の行は、内訳が書かれていなければ一式のまま1行にする ・見積条件・除外事項は、条件メモの列にまとめて書く ・最後に、元の見積書の合計金額と、表の金額列の合計が一致するかを書く 【出力】CSV形式(Excelに貼り付けられる形)
出力イメージ(例)
見積No,見積日,工事種別,構造・規模,工種,品名・仕様,数量,単位,単価,金額,経費区分,条件メモ E-2025-041,2025/6/12,外壁塗装,RC造3階 420㎡,下地,高圧洗浄,420,㎡,【元の値】,【元の値】,その他,足場は元請支給 E-2025-041,2025/6/12,外壁塗装,RC造3階 420㎡,塗装,下塗り シーラー,420,㎡,【元の値】,【元の値】,材料費, E-2025-041,2025/6/12,外壁塗装,RC造3階 420㎡,塗装,塗装工,18,人工,【元の値】,【元の値】,労務費, E-2025-041,2025/6/12,外壁塗装,RC造3階 420㎡,経費,法定福利費,1,式,【元の値】,【元の値】,法定福利費, 確認:元の見積書の合計と、金額列の合計は一致しました。 読取不可:なし/要確認:「養生」の行の経費区分 ※説明用の例です。
見積書が数十件、数百件あるなら、1件ずつチャットに添付するより、Claude Codeでフォルダごと処理する方が早く済みます。Claude Codeは、パソコンのフォルダにあるファイルを直接読み書きできるAIです。指示文の例は次のとおりです。
Claude Codeへの指示文(例)
過去見積フォルダにある見積書(*.xlsx と *.pdf)をすべて読み、 出力/過去見積DB.xlsx の「明細」シートに1行1明細で追記してください。 列は【見積No、見積日、工事種別、構造・規模、工種、品名・仕様、数量、単位、単価、金額、経費区分、条件メモ、元ファイル名】です。 【ルール】 ・過去見積フォルダのファイルは読むだけで、書き換えない ・見積書にない値は推測しない。読めない値は「読取不可」 ・ファイルごとに、元の合計金額と抽出した金額の合計を「検証」シートに記録し、一致しないファイルを一覧にする ・まず3ファイルだけ処理して結果を見せ、承認後に残りを処理する
「まず3ファイルだけ」と区切るのがコツです。列の読み取り方を確認してから全件に広げれば、やり直しが減ります。Claude Codeの使い分けはClaudeでExcel作業を効率化で詳しく解説しています。
ステップ2・3:似た案件を探し、項目の下書きを作る
コピーして使えるプロンプト
添付した【過去見積DB.xlsx】から、次の工事に近い過去の見積を3件選び、項目の下書きを作ってください。 【今回の工事条件】 ・工事種別:【外壁塗装】/構造・規模:【RC造4階、塗装面積 約560㎡】 ・条件:【足場は元請支給、シーリング打替えあり、工期は11月】 【やってほしいこと】 1. 近い案件3件と、選んだ理由(構造・規模・条件の近さ) 2. 今回の項目の下書き表:工種、品名・仕様、数量の式(例:塗装面積×1.0)、単位、経費区分、参考にした見積No 3. 過去の見積になく、今回追加が必要そうな項目と、今回は不要そうな項目 4. 過去の見積で単価が大きくばらついている項目(単価の数字は出さず、ばらつきがあることだけ指摘) 【ルール】 ・単価と金額の列は作らない(金額はExcelで計算するため) ・数量は式で示し、計算結果は出さない ・判断できない点は「要確認」とする
出力イメージ(例)
■ 近い案件 1. E-2025-041:RC造3階・420㎡・足場支給(構造と条件が同じ。規模は小さい) 2. E-2024-118:RC造4階・610㎡(規模が近い。シーリングは補修のみ) 3. E-2026-007:RC造4階・530㎡・シーリング打替えあり(条件が最も近い) ■ 項目の下書き(抜粋) 工種 品名・仕様 数量の式 単位 経費区分 参考 下地 高圧洗浄 塗装面積×1.0 ㎡ その他 041,007 シーリング 打替え(変成シリコン) 目地長さ【要確認:図面】 m 材料費/労務費 007 塗装 下塗り シーラー 塗装面積×1.0 ㎡ 材料費 041,118 塗装 塗装工 過去の人工÷面積×560【要確認】 人工 労務費 041,007 経費 安全衛生経費 積み上げ 式 安全衛生経費 007 ■ 追加が必要そうな項目 ・4階建てのため、高所作業に関する安全衛生経費の見直し【要確認】 ■ 単価のばらつき ・シーリング打替えは3件で単価の差が大きい → 仕入先に最新価格を確認 ※説明用の例です。
ステップ4:金額はExcel側で計算する
下書きを見積用のExcelに貼ったら、単価は人が入れ、金額は数式で出します。法定福利費は、労務費の合計と「料率」シートの値から計算します。AIには、この数式づくりを頼みます。
コピーして使えるプロンプト
見積用のExcelの数式を作ってください。 【シート構成】 ・「明細」:A=工種、B=品名・仕様、C=数量、D=単位、E=単価(人が入力)、F=金額、G=経費区分 ・「料率」:B2=法定福利費の料率の合計(人が入力。確認日をC2に記入) ・「鑑」:経費区分ごとの小計、法定福利費、合計(税抜)、消費税、合計(税込) 【やりたいこと】 1. F列=数量×単価(単価が空欄なら空欄のまま) 2. 鑑に、経費区分ごとの小計をSUMIFで出す 3. 法定福利費=労務費の小計×料率!B2 4. 単価が空欄の行が1つでもあれば、鑑に「単価未入力あり」と表示する 【条件】Microsoft 365のExcel。式ごとにセルと意味を短く説明する
出力イメージ(例)
■ 明細!F2(下へコピー) =IF(E2="","",C2*E2) ■ 鑑!C5(労務費の小計) =SUMIF(明細!$G:$G,"労務費",明細!$F:$F) ■ 鑑!C8(法定福利費) =ROUND(C5*料率!$B$2,0) → 端数処理(ROUND/ROUNDDOWN)は自社のルールに合わせてください【要確認】 ■ 鑑!C2(未入力の警告) =IF(COUNTIFS(明細!$A$2:$A$500,"<>",明細!$E$2:$E$500,"")>0,"単価未入力あり","") → 工種が入っているのに単価が空欄の行を数えます(範囲は明細の行数に合わせる) ※説明用の例です。実際の列の位置に合わせて確認してください。
料率のセルを1か所にしておけば、年度が変わっても料率を書き換えるだけで済みます。料率をAIに聞いて入れるのではなく、公表元の最新の値を人が確認して入力してください。
ステップ5:人が確認するポイント
AIの下書きとExcelの計算が終わったら、最後に人が確認します。AIには「抜けや矛盾の指摘」を頼めますが、判断は人が行います。
| 確認する点 | 確認する人の目安 | AIに頼めること |
|---|---|---|
| 数量の根拠(図面・現地調査との一致) | 積算・現場担当 | 数量の式と過去案件の比率の比較 |
| 単価が最新か、著しく低くないか | 見積担当・責任者 | 過去の単価より大きく下がった行の一覧化 |
| 経費区分(材料費・労務費・法定福利費・建退共掛金・安全衛生経費) | 見積担当 | 区分が空欄・不自然な行の指摘 |
| 見積条件・除外事項 | 見積担当・営業 | 今回の条件と過去見積の条件の違いの洗い出し |
| 最終金額・値引き | 責任者 | なし(人が判断) |
見積の内訳を工事台帳の費目とそろえておくと、受注後の原価管理にもつながります。詳しくは工事台帳とは?をご覧ください。
注意
本記事の法令・制度の内容は、2026年10月1日時点で国土交通省の資料を確認したものです(e-Gov法令検索は確認日にメンテナンス中のため、条文の原文は公開前に再確認が必要です)。見積書の様式や記載事項は、注文者の指定が優先します。保険料率・掛金日額・労務単価は年度ごとに見直されるため、公表元で最新の値を確認してください。AIが作った項目・数量の下書きは必ず人が確認し、金額はExcelの数式で計算してください。顧客名や金額を含む見積をAIに渡す場合は、社内ルールと利用するサービスのデータの扱いを確認してください。
今日からできることチェックリスト
- 過去1年分の見積書を1つのフォルダに集めた
- データ化の列(工事種別・規模・工種・数量・単位・経費区分・条件)を決めた
- 見積書を1件、AIで表に変換し、元の合計と一致するか確かめた
- 見積用Excelに「料率」シートを作り、料率と確認日を人が入力した
- 金額・小計・法定福利費が数式で計算されるようにした
- AIへの指示に「単価と金額は出さない」「推測で埋めない」を入れた
- 単価が過去より大きく下がった行を確認する手順を決めた
- 当初見積と最終見積を両方保存する場所を決めた
見積書×AIのよくある質問
AIに見積書を丸ごと作らせてもいいですか?
おすすめしません。AIは最新の単価や料率、現場の条件を知らず、文章で出した金額は根拠を追えません。AIには過去見積の検索と項目・数量の下書きを任せ、金額はExcelの数式で計算し、最終金額は人が決めてください。
見積書に法定福利費を書くのは義務ですか?
建設業法第20条第1項で、材料費・労務費・法定福利費などの必要経費を記載した見積書を作るよう努めることとされています(努力義務)。あわせて、材料費等を通常必要な額より著しく低く見積もることは禁止されています。注文者の指定もあわせて確認してください。
過去の見積がPDFや紙しかなくても使えますか?
PDFならAIで表に変換できます。紙はスキャンしてPDFにします。ただし、読み取りの誤りが起きることがあるため、元の合計金額と抽出した金額の合計が一致するかを必ず確認してください。
ChatGPTでもClaudeでも同じ手順でできますか?
指示文はどちらでも使える書き方にしています。ファイルの読み込みや作成の機能、対象プランはサービスごとに違うため、各社の公式情報で確認してください。フォルダごとの一括処理は、Claude Codeのようにパソコンのファイルを直接扱えるツールが向いています。
見積単価をAIに相場として聞いてもいいですか?
参考程度にとどめてください。AIの答えには根拠となる時期や地域がはっきりしないことが多く、そのまま使うと実勢とずれるおそれがあります。単価は自社の過去実績、仕入先の見積、公表資料を根拠に人が決めます。
まとめ
- AIは「過去見積の検索と項目・数量の下書き」、金額は「Excelの数式」、最終判断は「人」と分ける
- 過去見積を1行1明細の表にそろえると、検索・比較・保存の土台になる
- 建設業法第20条を踏まえ、下書きの段階から経費区分の列を持たせる
- 法定福利費は労務費×料率。料率は人が確認日つきでセルに入力する
- AIへの指示には「単価と金額は出さない」「推測で埋めない」を入れる
見積の内訳づくりを、キットで仕組みにしませんか
「見積・内訳明細・法定福利費 作成キット」では、内訳の作り方、法定福利費を内訳で示す方法、過去見積から下書きを作る手順(計算はExcel側)を、指示文と記入例つきでまとめました。自社の見積書式に合わせてお使いいただけます。
