建設業の見積書は、工事の内容ごとに数量・単価・金額を示し、材料費や労務費などの内訳を明らかにして請負金額を提示する書類です。書き方の基本は「鑑(表紙)」「内訳書」「明細書」の3層で作ることです。
2025年12月12日に改正建設業法が完全施行され、見積書のルールが強まりました。建設業者は、材料費・労務費・法定福利費などの内訳と、工程ごとの作業・日数を書いた見積書を作るよう努めることになっています。通常必要な額を著しく下回る材料費等での見積りは禁止です。
この記事では、2026年9月30日時点でe-Gov法令検索と国土交通省の資料を確認し、見積書の書き方、内訳の作り方、テンプレートの選び方を解説します。過去の見積書からAIで下書きを作る方法も紹介します。
この記事でわかること
- 建設業の見積書に関する法律のルール(建設業法第20条など)
- 鑑・内訳書・明細書の構成と、鑑に書く項目
- 材料費・労務費・法定福利費など内訳の作り方と記入例
- 国の様式例・業界団体の標準見積書・自社Excelの選び方
- 過去の見積書からAIで下書きを作るプロンプト
見積書の下書きや内訳チェックに使えるプロンプトをまとめました。
建設業の見積書で押さえる法律のルール
見積書の様式そのものは、法律で1つに決まっていません。ただし、見積書の中身や見積りの進め方には、建設業法のルールがあります。
| 根拠 | 内容(要旨) | 対象 |
|---|---|---|
| 建設業法第20条第1項 | 工事の種別ごとの材料費・労務費・必要経費などの内訳と、工程ごとの作業・準備に必要な日数を書いた見積書(材料費等記載見積書)を作るよう努める | 建設業者(努力義務) |
| 同条第2項 | 見積書の材料費等を、通常必要と認められる額より著しく低くしてはならない | 建設業者(禁止) |
| 同条第3項・施行令第5条の9 | 注文者は工事内容をできる限り具体的に示し、見積期間を設ける。予定価格500万円未満は1日以上、500万円以上5,000万円未満は10日以上、5,000万円以上は15日以上 | 注文者 |
| 同条第4項・第6項 | 注文者は見積書の内容を考慮するよう努める。材料費等を著しく下回る額への変更を求めてはならない | 注文者 |
| 施行規則第13条の12 | 内訳を示す必要経費は、法定福利費(事業主負担額)、安全衛生経費、建設業退職金共済(建退共)の掛金 | − |
| 施行規則第26条第5項・第28条第2項 | 材料費等記載見積書を作ったときは、その見積書と、契約前の見積内容に関する注文者との打合せ記録(当事者が相互に交付したもの)を、引渡しから10年間保存する | 建設業者 |
見積期間は、やむを得ない事情があるときは500万円以上の工事について5日以内に限り短縮できます。国土交通省の書き方ガイドは、「当初見積書」と「最終見積書」の両方を保存するよう求めています。
改正の全体像は建設業法改正のポイント、労務費の基準は標準労務費の解説で詳しく説明しています。この記事では、見積書を実際に作る手順に絞って解説します。
見積書の構成|鑑・内訳書・明細書
建設工事の見積書は、金額の粒度ごとに3層で作るのが一般的です。国土交通省が公表した専門工事業者向けの見積書「様式例」も、詳細版は「鑑(別紙を含む)」と「明細書」で構成されています。
| 書類 | 役割 | 主な記載内容 |
|---|---|---|
| 鑑(表紙) | 見積の結論と条件を1枚で示す | 宛先、工事名、工事場所、見積金額、工期、有効期限、支払条件、見積条件 |
| 鑑の別紙(内訳明示) | 法律で内訳を示す経費をまとめる | 材料費、労務費、法定福利費、建退共掛金、安全衛生経費 |
| 内訳書 | 工種ごとの金額を示す | 工種、数量、単位、金額、工種ごとの小計 |
| 明細書 | 数量と単価の根拠を示す | 品名・仕様、数量、単位、単価、金額、歩掛、人工 |
鑑に書く項目と書き方
| 項目 | 書き方のポイント | 記入例(説明用) |
|---|---|---|
| 宛先 | 正式な会社名・部署名を書く | ○○建設株式会社 工事部 御中 |
| 工事名・場所 | 注文書・契約書と同じ表記にする | ○○ビル外壁改修工事 ○○市○○町 |
| 見積金額 | 税抜・税込の別を明記する | 金1,234,000円(税抜) |
| 工期 | 着工・完成の予定、または必要日数を書く | 契約後○日(実働○日) |
| 見積有効期限 | 資材価格の変動に備えて期限を決める | 提出日から30日 |
| 支払条件 | 締め日・支払日・支払方法を書く | 月末締め翌月末払い |
| 見積条件 | 前提条件と除外事項を書く(次の章で解説) | 足場は元請様支給 |
※記入例は説明用の例です。実際の記載事項は、注文者の指定や自社の書式に合わせてください。
内訳の作り方|5つの経費を分けて書く
国土交通省の「書き方ガイド」では、見積書で内訳を示す5つの経費を次のように説明しています。
| 経費 | 中身(国交省ガイドより要約) | 計算の考え方 |
|---|---|---|
| 材料費 | 工事の施工に直接使う材料の調達費用 | 数量×単価 |
| 労務費 | 技能者本人が受け取る賃金の原資。社会保険料の本人負担分を含み、事業主負担分は含まない | 数量×歩掛×単価 |
| 法定福利費 | 健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・子ども・子育て拠出金・雇用保険料の事業主負担分 | 労務費×保険料率 |
| 建退共掛金 | 建設業退職金共済の掛金。上位の請負者が証紙などを一括購入していない場合に計上 | 人工×単価 |
| 安全衛生経費 | 労働安全衛生法などにもとづく労働災害防止対策に必要な経費 | 積み上げ、経費率、またはその組み合わせ |
ポイントは、労務費と法定福利費(事業主負担分)を分けて書くことです。法定福利費の計算方法は法定福利費の計算方法と見積書への書き方で詳しく解説しています。
内訳を作る手順
- 見積条件を確認する注文者から示された図面・仕様・工期・支給品を一覧にし、不明点を質問します。
- 作業ごとに数量を拾う作業(工事)と工程に分け、数量を拾います。拾い方は積算のやり方を参考にしてください。
- 材料費を計算する材料ごとに数量×単価を出します。仕入先の見積や物価資料を根拠にします。
- 労務費を計算する作業ごとに数量×歩掛で人工を出し、労務単価を掛けます。再下請する分も含めます。
- 必要経費を計算する法定福利費、建退共掛金、安全衛生経費を計算し、鑑の別紙にまとめます。
- 諸経費・利益を加えて合計する現場管理費や一般管理費などを加え、税抜・税込の合計を出します。
- 工程と日数を書く工程ごとの作業と、準備に必要な日数を記載します。建設業法第20条第1項の記載事項です。
内訳明示の記入例
| 経費 | 計算 | 金額(税抜) |
|---|---|---|
| 材料費 | 塗料・下地材など(明細書のとおり) | 380,000円 |
| 労務費 | 塗装工 20人工×26,000円 | 520,000円 |
| 法定福利費(事業主負担分) | 労務費520,000円×保険料率15%【要確認】 | 78,000円 |
| 建退共掛金 | 20人工×掛金日額【要確認】 | 【要確認】 |
| 安全衛生経費 | 安全帯・保護具・安全教育など(積み上げ) | 40,000円 |
| その他経費・諸経費 | 運搬費・現場管理費・一般管理費など | 150,000円 |
※説明用の例です。単価・人工・料率は架空の数値です。保険料率と建退共の掛金日額は、年度ごとに最新の公表値を確認してください。
見積条件・除外事項の書き方
見積金額のトラブルの多くは、「どこまで含むか」の認識違いから起きます。前提条件と除外事項を、具体的に書いておきましょう。
| 分類 | 書く内容 | 文例(説明用) |
|---|---|---|
| 前提条件 | 作業時間、搬入経路、支給品 | 作業時間は平日8時〜17時を前提としています |
| 除外事項 | 見積に含まないもの | 足場、養生、産業廃棄物の処分費は含みません |
| 変動条件 | 資材価格・数量が変わったときの扱い | 主要資材の価格が大きく変動した場合は、協議のうえ金額を見直します |
| 負担区分 | 安全衛生・建設副産物の処理の担当と費用負担 | 場内の分別は当社、場外の運搬・処分は元請様のご負担とします |
国土交通省の書き方ガイドは、建設副産物の適正処理の実施者と経費の負担者を明確にし、見積書に示すことが望ましいとしています。資材高騰のおそれがある場合の通知と変更協議のルールは、建設業法改正のポイントで解説しています。
見積書テンプレートの選び方
| テンプレート | 向いている会社 | 注意点 |
|---|---|---|
| 国土交通省の見積書「様式例」(Excel) | 下請として元請に見積を出す専門工事業者 | 簡易版と詳細版がある。国の資料では、自社に合わせてExcelを編集してもよいとされている |
| 業界団体の標準見積書 | 業種団体に加盟している会社 | 業種の特性に合った項目がある。最新版かを確認する |
| 自社のExcel書式 | 元請として施主に見積を出す会社 | 5つの経費の内訳欄と、工程・日数の欄を追加する |
| 見積・原価管理ソフト | 見積件数が多い会社 | 内訳明示の出力に対応しているか確認する |
国の書き方ガイドは、当初と最終の見積書の比べやすさやデータの蓄積のため、電子媒体での作成を推奨しています。受注後の原価管理まで考えると、見積の内訳と工事台帳の費目をそろえておくと便利です。
AIで見積書の下書きを作る方法
生成AI(ChatGPTやClaudeなど)は、過去の見積書を参考にした下書きづくりや、当初見積と最終見積の差分整理に向いています。単価や料率の決定、値引きの判断は人が行います。
過去の見積書から下書きを作るプロンプト
コピーして使えるプロンプト
あなたは建設会社の見積担当を補佐するアシスタントです。 【過去の見積書】を参考に、【今回の工事条件】に合う見積書の下書きを作ってください。 # 出力する内容 1. 鑑に書く項目(工事名、工期、有効期限、支払条件、見積条件、除外事項) 2. 内訳表(作業名、仕様、数量、単位、単価、金額、根拠) 3. 内訳明示の5経費(材料費、労務費、法定福利費、建退共掛金、安全衛生経費)の集計 4. 工程ごとの作業と必要日数 # 条件 ・単価は過去の見積書の値を使い、変えた箇所には理由を書く ・過去の見積書にない項目の単価は空欄にし「要確認」とする ・数量は今回の条件から計算し、計算式を併記する ・法定福利費の料率と建退共の掛金日額は、私が入力した値だけを使う ・金額はすべて税抜で計算し、最後に合計を出す ・今回の条件と過去の見積の違いで、追加・削除すべき項目があれば指摘する # 入力値 法定福利費の料率:【例:○○%(○年度の料率で確認済み)】 建退共の掛金日額:【例:○○円(確認日:YYYY/MM/DD)】 # 過去の見積書 【過去の見積書の内訳を表のまま貼り付け】 # 今回の工事条件 【例:外壁塗装 塗装面積420㎡ 3階建て 足場は元請支給 工期は10月中】
出力イメージ(例)
■見積条件(案) ・足場は元請様支給を前提とします ・下地補修は目視で確認できる範囲とし、 範囲が大きい場合は別途協議とします【要確認】 ■内訳表(抜粋) | 作業 | 数量 | 単位 | 単価 | 金額 | 根拠 | | 高圧洗浄 | 420 | ㎡ | 過去見積の単価 | 計算値 | 過去見積No.○ | | 下塗り | 420 | ㎡ | 過去見積の単価 | 計算値 | 過去見積No.○ | | シーリング打替え | − | m | 要確認 | − | 過去見積に項目なし | ■指摘事項 ・今回は3階建てのため、過去見積(2階建て)より 高所作業の安全衛生経費の見直しが必要な可能性があります【要確認】 ※説明用の例です。
当初見積と最終見積の違いを整理するプロンプト
価格交渉で金額が変わったときは、何をなぜ変えたかを記録しておくと、10年保存の対象となる打合せ記録の整理に役立ちます。
コピーして使えるプロンプト
以下の【当初見積書】と【最終見積書】を比べ、 変更のあった項目を表にしてください。 列は「項目」「当初金額」「最終金額」「差額」「変更理由(わかる範囲)」とします。 変更理由が見積書から読み取れない項目は「要確認」としてください。 最後に、材料費・労務費・法定福利費・建退共掛金・安全衛生経費の それぞれについて、当初からの増減を集計してください。 # 当初見積書 【貼り付け】 # 最終見積書 【貼り付け】
内訳の抜けを点検するプロンプトや見積条件書の文案づくりは、建設業のプロンプト集に掲載しています。
注意
本記事の法令の内容は2026年9月30日時点の確認です。見積書の様式や記載事項は、注文者の指定・最新の仕様書が優先します。保険料率・掛金日額・労務単価は毎年見直されるため、公表元で最新の値を確認してください。AIが作った下書きの単価・数量・金額は必ず人が確認し、顧客名や金額など社外秘の情報を入力する場合は、社内ルールと利用するサービスの規約を確認してください。
見積書の提出前チェックリスト
- 工事名・工事場所が注文者の書類と一致している
- 税抜・税込の別と、見積有効期限を書いた
- 材料費・労務費・法定福利費・建退共掛金・安全衛生経費を分けて書いた
- 労務費に法定福利費の事業主負担分を混ぜていない
- 工程ごとの作業と必要な日数を書いた
- 前提条件・除外事項・変動時の扱いを書いた
- 再下請する分の材料費・労務費・必要経費も計上した
- 当初見積書と打合せ記録を工事ごとに保存する場所を決めた
建設業の見積書のよくある質問
建設業の見積書に決まった様式はありますか?
法律で決まった1つの様式はありません。国土交通省は専門工事業者向けに見積書の「様式例」(簡易版・詳細版)を公表しており、業界団体の標準見積書もあります。材料費・労務費・必要経費の内訳と、工程ごとの作業・日数を書ける様式にすることが大切です。
見積書に法定福利費を書かないと違法ですか?
内訳を書いた見積書の作成は努力義務です。書かなかったことだけで直ちに違法になるわけではありません。ただし、材料費等を通常必要な額より著しく低く見積もることは禁止されています。適正な見積りであることを説明できるよう、内訳を示すことが勧められています。
見積書はいつまで保存すればよいですか?
材料費等記載見積書を作った場合、その見積書と、契約前の見積内容に関する打合せ記録は、目的物の引渡しから10年間の保存が必要です(建設業法施行規則第26条第5項・第28条第2項)。国土交通省のガイドは、当初見積書と最終見積書の両方を保存するよう求めています。
見積期間は何日必要ですか?
建設業法施行令第5条の9で、予定価格500万円未満は1日以上、500万円以上5,000万円未満は10日以上、5,000万円以上は15日以上と定められています。やむを得ない事情がある場合、500万円以上の工事は5日以内に限り短縮できます。
AIに見積書を作らせても大丈夫ですか?
過去の見積書をもとにした下書きや、差分の整理にはAIが役立ちます。ただし、AIは最新の単価や料率、現場の条件を知りません。単価・数量・金額は必ず人が確認し、最終的な見積金額は人が決めてください。
まとめ
- 見積書は鑑・内訳書・明細書の3層で作り、工程ごとの作業と日数も書く
- 材料費・労務費・法定福利費・建退共掛金・安全衛生経費の5つを分けて内訳を示す
- 材料費等記載見積書と契約前の打合せ記録は、引渡しから10年間保存する
- AIは過去見積からの下書きと差分整理に使い、単価と最終金額は人が決める
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