標準労務費とは、一般に、国の中央建設業審議会が作成・勧告した「労務費に関する基準」を指す呼び方です。技能者に適正な賃金を払うための原資となる「通常必要と認められる労務費(適正な労務費)」の目安を示したものです。
基準は2025年12月2日に作成・勧告されました。2025年12月12日には改正建設業法が完全施行され、この基準に照らして著しく低い労務費等での見積りや値下げ依頼が禁止されました。公共工事・民間工事を問わず、元請・下請のすべての契約段階が対象です。
この記事では、2026年9月30日時点で国土交通省の資料を確認し、標準労務費の考え方、見積・契約への影響、今から進める準備を整理します。まだ定まっていない部分は、そのことを明記しています。
この記事でわかること
- 標準労務費(労務費に関する基準)の意味と法的な位置づけ
- 「設計労務単価×歩掛」で示される基準値の考え方
- 禁止される見積り・契約と、違反したときの扱い
- 見積書・契約書・賃金支払いへの具体的な影響
- 中小建設会社が今から進める準備と、AIで楽にする方法
見積書の内訳整理や日報の集計に使えるテンプレートとプロンプトをまとめました。
標準労務費(労務費に関する基準)とは
根拠は、2024年6月に公布された改正建設業法(令和6年法律第49号)です。中央建設業審議会(中建審)が「労務費に関する基準」を作成し、実施を勧告できることになりました(建設業法第34条第2項)。中建審は、建設業法にもとづき国土交通省に置かれた審議会です。
中建審は2024年9月にワーキンググループを設け、2025年10月までに計11回の議論を行いました。その案をもとに、2025年12月2日の中建審で基準が作成され、実施が勧告されています。
国土交通省の資料では、この基準の目的を次のように説明しています。適正な労務費(賃金の原資)が、受発注者間、元請と下請の間、下請間のすべての段階で確保され、技能者に適正な賃金が支払われるようにすることです。
関連する用語の整理
| 用語 | 意味 | 公表・根拠 |
|---|---|---|
| 労務費に関する基準 | 通常必要と認められる労務費(適正な労務費)の考え方と、その確保策を示した基準。一般に「標準労務費」とも呼ばれる | 中建審(2025年12月2日作成・勧告) |
| 労務費の基準値 | 職種分野別に、標準的な作業内容・施工条件を前提とした「単位施工量当たり労務費」の具体値 | 国土交通省が公表 |
| 公共工事設計労務単価 | 基準値の計算の基礎になる、職種別・都道府県別の労務単価 | 国土交通省が毎年公表 |
| 材料費等記載見積書 | 材料費・労務費・必要経費の内訳と、工程ごとの作業・日数を記載した見積書 | 建設業法第20条 |
| CCUSレベル別年収 | 技能者に支払われるべき適正な賃金の目安。目標値と標準値の2つの水準がある | 国土交通省(2026年4月改定) |
基準値の考え方と計算方法
国土交通省の説明資料では、適正な労務費を次の式で示しています。
通常必要と認められる労務費=設計労務単価×歩掛×数量
歩掛(ぶがかり)とは、単位量の作業に必要な労力(人数・日数)のことです。労務単価は設計労務単価を下回る水準にしないこと、歩掛は現場の施工条件に照らして受注者が責任を持って施工できる水準で設定することが求められています。
基準値の例と公表状況
国土交通省は、職種分野別に、トン当たり・平米当たりなどの「単位施工量当たり労務費」を基準値として公表しています。2025年12月時点の説明会資料では、東京都の例として次の値が示されていました。
| 職種分野 | 基準値(2025年12月時点・東京都の例) | 主な前提条件 |
|---|---|---|
| 鉄筋工事(建築) | 71,472円/t | 鉄筋の工場加工・現場組立、打設時の合番。RCラーメン構造、階高3.5〜4.0m程度、形状単純など |
| 型枠工事(建築) | 5,291円/㎡ | 普通合板型枠の加工・組立・取外しなど。ラーメン構造・地上軸部、階高3.5〜4.0m程度など |
この時点で、13職種分野99工種(作業)の基準値が設定されていました。その後、2026年3月31日に「とび・土工」「塗装」「内装」「防水」など11職種分野で34工種(作業)が追加されています。同日、すべての基準値が2026年3月から適用の公共工事設計労務単価に合わせて更新されました。上の表の金額は更新前の例です。最新の値は、国土交通省の「労務費に関する基準ポータルサイト」で都道府県・職種分野から検索してください。
計算のイメージは次のとおりです。型枠工事(建築)の基準値5,291円/㎡(2025年12月時点の東京都の例)を使い、施工数量を800㎡とします。5,291円×800㎡=4,232,800円が労務費の目安です。※説明用の例です。実際は最新の基準値を使い、現場条件に応じて補正します。
基準値を使うときの注意点
- 基準値は標準的な条件を前提とした値です。特殊な気象条件や現場の制約がある場合は、作業内容に合わせて補正します
- 基準値には、法定福利費の事業主負担分などの必要経費は含まれていません。ポータルサイトでは参考値として「雇用に伴う必要経費」も公表されています
- 基準値のない職種分野でも、適正な労務費を確保する必要性は変わらないとされています
施行時期と禁止される行為
基準にもとづく新しいルールは、改正建設業法の完全施行日である2025年12月12日から適用されています。国土交通省の資料をもとに、立場ごとの主なルールを整理します。
| 場面 | 受注者(建設業者) | 注文者 |
|---|---|---|
| 見積り | 材料費等記載見積書を作成する努力義務。材料費等を通常必要な額より著しく低く見積もることは禁止(第20条第1項・第2項) | 見積書の内容を考慮する努力義務。著しく低い額への見積り変更依頼は禁止(第20条第4項・第6項) |
| 契約 | 正当な理由なく、通常必要と認められる原価に満たない金額で契約することは禁止(第19条の3第2項) | 取引上の地位を不当に利用した原価割れ契約は禁止(第19条の3第1項) |
| 違反したとき | 国土交通大臣等による指導・監督の対象 | 著しく低い額への見積り変更依頼に応じさせて契約した発注者は、勧告・公表の対象(通常必要な費用が500万円、建築一式工事は1,500万円以上の契約)。注文者が建設業者の場合は指導・監督の対象 |
国土交通省の運用方針では、原価割れ契約に当たるかどうかの判断で、直接工事費の労務費部分は基準の「通常必要と認められる労務費」も参考にするとしています。法改正全体の流れは建設業法改正のポイントで解説しています。
見積への影響:内訳を明示した見積書が前提になる
基準の実効性を確保する「入口」の対策として、国土交通省は労務費等を内訳明示した見積書を重視しています。
見積書で内訳を示す費目
- 材料費
- 労務費
- 法定福利費の事業主負担分
- 安全衛生経費
- 建設業退職金共済制度の掛金
建設業法第20条第1項では、これらの内訳に加えて、工程ごとの作業とその準備に必要な日数も見積書に記載するよう努めることとしています。法定福利費は、2026年度から徴収される子ども・子育て支援金を含める解釈にもとづき、2026年6月に運用方針が改正されました。法定福利費の計算は法定福利費の計算方法と見積書への書き方をご覧ください。
運用方針で示された実務上の考え方
国土交通省の「『労務費に関する基準』の運用方針」には、価格交渉時の考え方が71の方針として整理されています。中小建設会社に関係の深いものを抜粋します。
| 方針 | 内容(要旨) |
|---|---|
| 方針9 見積書の保存 | 当初見積書と最終見積書を、請負契約書と同様に目的物の引渡しから10年間保存する |
| 方針10 精算の考え方 | 契約時の見込みと実際の労務費の差は原則として受注側に帰属する。注文者都合の設計変更などがあれば協議で契約変更する |
| 方針16 下請見積りを取らずに見積もった場合 | 受注後に下請から想定より多い労務費を請求されても、受注者が自ら負担して適正額を支払うのが原則 |
| 方針17 値引き | お得意様価格や閑散期の値引きは否定されないが、原資は受注者の利潤の範囲から充てる。下請には適正に支払う |
| 方針22 見積書の作成慣行がない中小事業者 | 国の様式例や業界団体の標準見積書を活用し、労務費・必要経費を盛り込んだ見積書を作る力を高める |
国土交通省のポータルサイトでは、専門工事業者向けの見積書「様式例」(詳細版・簡易版)と「書き方ガイド」が公開されています。注文者が設ける見積期間は、建設業法施行令第5条の9で定められています。予定価格500万円未満は1日以上、500万円以上5,000万円未満は10日以上、5,000万円以上は15日以上です。見積書の作り方は建設業の見積書の書き方も参考にしてください。
契約・賃金支払いへの影響
基準の「出口」の対策として、確保した労務費が技能者の賃金として支払われることを確かめる仕組みも整えられています。
- コミットメント条項:2025年12月の建設工事標準請負契約約款の改正で、労務費・賃金の適正な支払いに関する表明や情報開示の条項が新設されました。契約当事者が任意で使う選択条項で、積極的な活用が推奨されています
- CCUSレベル別年収:技能者に支払われるべき適正な賃金として位置づけられ、2026年4月に改定されました。目標値以上の支払いが推奨され、標準値を下回る事業者は労務費ダンピングのおそれがないか重点的に確認されます
- 建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度:処遇改善やCCUS活用に取り組む企業が宣言する制度です。国土交通省のサイトへの掲載や経審での加点などのインセンティブがあります
- 公共工事の上乗せの取組:2025年12月12日から、公共工事の応札者は労務費等を明示した入札金額の内訳を提出します。公共発注者は「労務費ダンピング調査」などで内容を確認します
CCUSの仕組みやレベルについては建設キャリアアップシステム(CCUS)の解説をご覧ください。
まだ定まっていない部分
基準値が公表されていない職種分野は、業界団体の意向を踏まえて順次対応するとされています。自社の職種の基準値がいつ公表されるかは決まっていません。また、国土交通省の3か年計画では、基準とCCUSレベル別年収の関係の整理や連携のあり方も検討課題に挙げられています。今後の公表内容に応じて、見積りの考え方を見直す必要があります。
中小建設会社が今から進める準備
基準値は標準的な条件の目安にすぎません。国土交通省は、受注者が自社の歩掛をもとに労務費を算出し、見積書で示すことを求めています。そのための準備を手順にまとめます。
- 自社の職種の基準値を確認するポータルサイトで、施工地域の都道府県と職種分野の基準値・前提条件を確認します。
- 自社の歩掛を把握する作業日報から、工種ごとの施工数量と延べ人工を集計し、1人工当たりの施工量を出します。
- 見積書の様式を直す材料費・労務費・法定福利費・安全衛生経費・建退共掛金を分け、工程ごとの作業と日数を書ける様式にします。国の様式例や業界団体の標準見積書が使えます。
- 下請からの見積取得のルールを決める元請・上位下請として見積書を出す前に、下請から見積りを取る流れを決めます。
- 保存と記録のルールを決める当初・最終見積書、契約書、交渉の記録を工事ごとに10年間保存できるようにします。
- 賃金水準を確認する自社の技能者の賃金を、CCUSレベル別年収の目標値・標準値と比べます。
多くの会社で負担になるのは2の歩掛の把握です。日報が紙や写真で残っていると、集計に時間がかかります。日報の書き方と集計は作業日報の書き方、Excelでの集計は建設業のExcel作業をAIで自動化する方法で解説しています。
AIで見積準備を楽にする方法
生成AI(ChatGPTやClaudeなど)は、日報データの集計や、見積書の内訳の抜けチェックに使えます。基準値そのものや法令の判断はAIに任せず、公式サイトで確認した値を人が入力してください。
コピーして使えるプロンプト
あなたは建設会社の積算・見積担当を補佐するアシスタントです。 以下の【作業日報の抜粋】から、工種ごとの歩掛(1人工当たりの施工量)を集計してください。 # 条件 ・工種ごとに「延べ人工」「施工数量」「1人工当たり施工量」「1単位当たり人工」を表で出す ・計算式も併記する ・数量の単位が混在している場合や、読み取れない行は「要確認」として別に列挙する ・最後に【基準値】と比べた場合の労務費の目安を計算する (労務費の目安=基準値×施工数量) ・基準値は私が入力した値だけを使い、あなたが推測した値は使わない # 基準値(国土交通省ポータルで確認した値を入力) 【例:型枠工事(建築)○○県 ○○円/㎡(確認日:YYYY/MM/DD)】 # 作業日報の抜粋 【例:5/12 型枠組立 4人 60㎡/5/13 型枠組立 5人 70㎡/5/14 型枠解体 3人 90㎡】
出力イメージ(例)
| 工種 | 延べ人工 | 施工数量 | 1人工当たり施工量 | 1㎡当たり人工 | | 型枠組立 | 9人工 | 130㎡ | 130÷9=約14.4㎡ | 9÷130=約0.069 | | 型枠解体 | 3人工 | 90㎡ | 90÷3=30.0㎡ | 3÷90=約0.033 | 要確認:なし 基準値との比較 型枠工事(建築)の基準値は組立・解体を含む前提のため、 工種の範囲を基準値の前提条件と照合してください【要確認】 ※説明用の例です。数値は架空です。
このほか、作った見積書の項目一覧を貼り付け、「材料費・労務費・法定福利費・安全衛生経費・建退共掛金が分かれているか」を点検させる使い方もできます。日報の集計から見積書の下書きまでを、自社の書式に合わせて仕組みにするのが建設AIシフトです。どこまで自動化できるかは、無料診断でお伝えしています。
注意
基準値、運用方針、CCUSレベル別年収は改定・追加されることがあります。見積りには必ず国土交通省の「労務費に関する基準ポータルサイト」の最新の値を使ってください。公共工事では、発注者の指定・最新の仕様書や積算基準が優先です。
個別の取引が禁止行為に当たるかの判断は、許可行政庁や専門家に確認してください。AIの計算結果は下書きです。数量・単価・合計の最終確認は必ず人が行ってください。
見積提出前のチェックリスト
- 施工地域・職種分野の最新の基準値と前提条件を確認した
- 現場条件に応じて、基準値の補正が必要か検討した
- 労務費を自社の歩掛と設計労務単価以上の単価で算出した
- 材料費・労務費・法定福利費(事業主負担分)・安全衛生経費・建退共掛金を分けて記載した
- 工程ごとの作業と必要日数を記載した
- 下請から見積りを取ったうえで見積書を作成した
- 当初見積書を保存し、最終見積書との差を説明できる記録を残している
- 値引きをする場合、下請への支払いや労務費を削る形になっていない
標準労務費のよくある質問
標準労務費はいつから適用されていますか?
「労務費に関する基準」は2025年12月2日に中央建設業審議会で作成・勧告されました。著しく低い労務費等での見積りや見積り変更依頼を禁止するルールは、2025年12月12日から適用されています。この日に改正建設業法が完全施行されました。
基準値どおりの金額で見積もらないといけませんか?
基準値は標準的な条件を前提とした目安で、そのまま個別の契約に当てはめるものではありません。受注者は現場の条件や自社の能力を踏まえて労務費を計算し、見積書で示します。そのうえで、通常必要と認められる額を著しく下回る見積りは禁止されています。
自社の職種の基準値がない場合はどうすればよいですか?
国土交通省は、基準値のない職種分野でも適正な労務費を確保する必要性は変わらないとしています。設計労務単価と自社の歩掛をもとに労務費を算出し、内訳を明示した見積書を作成してください。基準値は順次追加されているため、ポータルサイトを定期的に確認することをおすすめします。
民間工事にも適用されますか?
適用されます。国土交通省は、公共工事・民間工事を問わず適正な労務費を確保することを目指すと説明しています。発注者から技能者を雇用する建設業者まで、すべての取引段階の請負契約が対象です。
基準値に法定福利費は含まれていますか?
含まれていません。国土交通省のポータルサイトでは、基準値に法定福利費の事業主負担分などの必要経費は含まれないと説明しています。参考値として公表されている「雇用に伴う必要経費」を参照し、契約当事者間で協議することが重要とされています。
まとめ
- 標準労務費は、中建審が2025年12月2日に作成・勧告した「労務費に関する基準」を指す呼び方です
- 適正な労務費は「設計労務単価×歩掛×数量」で考え、国土交通省が職種分野別の基準値を公表しています
- 2025年12月12日から、著しく低い労務費等での見積り・値下げ依頼や原価割れ契約が禁止されています
- 内訳を明示した見積書、10年間の保存、自社歩掛の把握が実務の中心になります
- 日報からの歩掛集計や見積書の点検は、AIで効率化できます
日報集計や見積書づくりの手間、減らせるか診断しませんか
建設AIシフトの無料診断(30分〜1時間・オンライン可)では、日報の集計や見積書の作成など、いま時間がかかっている業務をうかがいます。そのうえで、自動化できる範囲と効果の目安をお伝えします。効果が見込めない場合は、そのままお伝えします。
参考・出典(2026年9月30日確認)
- 国土交通省「建設・不動産業:労務費に関する基準」
- 国土交通省「労務費に関する基準ポータルサイト」
- 労務費に関する基準ポータルサイト「職種分野から探す」(基準値の考え方)
- 労務費に関する基準ポータルサイト「『労務費の基準値』を追加・更新しました」(2026年3月31日)
- 労務費に関する基準ポータルサイト「『労務費に関する基準』の運用方針を改正しました」(2026年6月29日)
- 国土交通省「改正建設業法『令和7年12月施行分』説明会」資料
- 労務費に関する基準ポータルサイト「『建設工事標準請負契約約款』の概要」
- 労務費に関する基準ポータルサイト「『CCUSレベル別年収』とは」
- 労務費に関する基準ポータルサイト「『労務費ダンピング調査』の実施について」
- 国土交通省「改正の背景」ほか参考資料
- e-Gov法令検索「建設業法施行令」
