リスキリング(仕事で必要な新しい知識・技能を学び直すこと)に使える国の制度は、大きく2つに分かれます。会社が従業員に研修を受けさせたときに会社へ助成される「人材開発支援助成金」と、働く人が自分で講座を受けたときに本人へ支給される「教育訓練給付金」です。どちらも厚生労働省の制度です。
会社として研修費用の支援を受けたい場合は、人材開発支援助成金のコースから選ぶのが基本です。建設会社には、特別教育や技能講習などに使える建設業向けのコースもあります。
この記事では、2026年9月30日時点で公表されている厚生労働省の資料をもとに、制度の違いと選び方を整理します。受給額の試算は載せていません。対象になるかどうかは、労働局やハローワークが個別に判断します。
この記事でわかること
- 企業向けの助成金と個人向けの給付金の違い
- 人材開発支援助成金の主なコースと助成率(令和8年度)
- 建設会社が使える建設業向けコース(技能実習・認定訓練)
- 目的別の制度の選び方と、申請で失敗しないための共通ルール
AI導入のスケジュールと、使える支援制度の概要を1冊にまとめています。
リスキリングの助成金は「企業向け」と「個人向け」の2種類
最初に押さえたいのは、「誰が申請し、誰が受け取るか」です。ここを取り違えると、準備する書類も窓口も変わってしまいます。
| 項目 | 人材開発支援助成金(企業向け) | 教育訓練給付金(個人向け) |
|---|---|---|
| 申請する人 | 雇用保険適用事業所の事業主 | 講座を受けた本人(雇用保険の被保険者など) |
| 受け取る人 | 事業主 | 本人 |
| 対象の訓練 | 事業主が計画し、業務として受けさせる職務関連の訓練 | 厚生労働大臣が指定した講座 |
| 支援の中身 | 訓練経費の一部、訓練中の賃金の一部など | 本人が払った受講費用の一部 |
| 事前の手続き | 訓練開始前に計画届を労働局へ提出(コースにより期限が異なる) | 専門実践・特定一般は訓練前キャリアコンサルティングなどが必要 |
| 窓口 | 都道府県労働局(一部ハローワーク) | 住所を管轄するハローワーク |
会社が費用を出して、勤務時間中に研修を受けさせるなら企業向けです。社員が自分の意思で資格講座に通うなら個人向けが中心になります。会社が社員の自発的な受講を費用面で支える場合は、企業向けの「自発的職業能力開発訓練」も候補になります。
企業向け:人材開発支援助成金の主なコース
人材開発支援助成金は、事業主が雇用する従業員に、職務に関連した専門的な知識・技能を習得させる訓練を計画どおり行った場合に、経費や賃金の一部を助成する制度です。厚生労働省のページでは7つのコースが案内されています。
| コース・メニュー | 主な対象 | 経費助成率(中小企業) | 賃金助成(中小企業・1人1時間) |
|---|---|---|---|
| 人材育成支援コース(人材育成訓練) | 10時間以上のOFF-JT(業務の外で行う訓練) | 正規45%/非正規70% | 800円 |
| 人材育成支援コース(有期実習型訓練) | 有期契約労働者等の正社員転換を目的としたOJT+OFF-JT | 75% | 800円 |
| 人材育成支援コース(中高年齢者実習型訓練) | 中高年齢者が実践的なスキルを習得するOJT+OFF-JT(令和8年4月新設) | 60% | 800円 |
| 教育訓練休暇等付与コース | 有給教育訓練休暇制度(3年間で5日以上)の導入と取得 | 30万円(定額) | |
| 人への投資促進コース(高度デジタル人材訓練) | 高度デジタル人材を育てる訓練 | 75% | 1,000円 |
| 人への投資促進コース(定額制訓練) | サブスクリプション型の研修サービス | 60% | なし |
| 人への投資促進コース(自発的職業能力開発訓練) | 労働者が自発的に受けた訓練の費用を事業主が負担 | 45% | なし |
| 事業展開等リスキリング支援コース | 事業展開・DX化・GX化などに伴う10時間以上のOFF-JT(令和8年度末までの時限措置) | 75% | 1,000円 |
表は厚生労働省の令和8年度資料をもとに、主なメニューを抜き出したものです。訓練後に賃金を5%以上上げるなどの要件(賃金要件等)を満たすと、助成率が加算されるメニューがあります。コースごとに限度額や細かな要件が異なるため、必ず各コースの詳細版パンフレットで確認してください。
AI研修で検討されやすいコース
生成AIの業務活用研修で検討されやすいのは、事業展開等リスキリング支援コースです。社内のDX化に関連する業務の訓練が対象になるためです。ただし令和8年8月3日以降の計画届では、生成AI研修でも具体的な業務に直結する内容であることが必要になりました。要件と変更点はAI研修で使える助成金(事業展開等リスキリング支援コース)で詳しく解説しています。
建設会社が使える建設業向けのコース
人材開発支援助成金には、全業種向けのコースとは別に、建設業向けの2つのコースがあります。厚生労働省は令和8年9月に、建設技能者のリスキリングに使える支援制度をまとめた資料も公表しています。
| コース | 主な対象 | 中小建設事業主の助成(基本) |
|---|---|---|
| 建設労働者技能実習コース | 安衛法の特別教育・技能講習、技能検定の事前講習、登録基幹技能者講習など | 被保険者20人以下:経費助成75%、賃金助成9,500円/日・人 21人以上:経費助成70%(35歳未満)・45%(35歳以上)、賃金助成8,550円/日・人 |
| 建設労働者認定訓練コース | 職業能力開発促進法の認定職業訓練のうち建設関連の訓練(木造建築科、とび科など) | ほかの助成金・補助金に上乗せする仕組み 経費助成:都道府県の補助金で対象となった経費の6分の1 賃金助成:3,800円/日・人(人材育成支援コースの支給決定が条件) |
技能実習コースの経費助成は、中小建設事業主以外は女性建設労働者の技能実習に限られます。また、建設キャリアアップシステム(CCUS)に技能者情報を登録している人の場合、賃金助成が上乗せされます(20人以下の場合10,450円/日・人)。賃金要件等を満たした場合の加算もあります。CCUSの登録については建設キャリアアップシステム(CCUS)とはをご覧ください。
技能実習コースの計画届は、原則として技能実習を行う日の3か月前から1週間前までに提出します。登録教習機関等が行う技能実習を受けさせる場合は計画届が不要です。支給申請は、技能実習が終わった日の翌日から2か月以内です。
個人向け:教育訓練給付金と教育訓練休暇給付金
教育訓練給付金は、雇用保険の被保険者(または被保険者だった人)が、厚生労働大臣の指定講座を受講・修了したときに、受講費用の一部が本人に支給される制度です。講座は「教育訓練講座検索システム」で探せます。
| 種類 | 対象となる講座のイメージ | 給付の内容(令和6年10月以降に開講・受講開始の講座) |
|---|---|---|
| 専門実践教育訓練 | 中長期的なキャリア形成に役立つ講座(業務独占資格の養成課程など) | 受講費用の50%(年間上限40万円)。資格取得等で就職・在職すると70%(年間上限56万円)、さらに賃金が5%以上上がると80%(年間上限64万円) |
| 特定一般教育訓練 | 速やかな再就職と早期のキャリア形成に役立つ講座 | 受講費用の40%(上限20万円)。資格取得等の条件を満たすと50%(上限25万円) |
| 一般教育訓練 | その他の雇用の安定・就職の促進に役立つ講座 | 受講費用の20%(上限10万円) |
受給には、原則として雇用保険の加入期間が3年以上必要です。初めて受け取る人は、専門実践が2年以上、特定一般・一般が1年以上で受給できます。受講開始日の前日から3年以内に給付を受けたことがある場合は支給されません。
厚生労働省の資料では、建設業と関係の深い指定講座の例として、土木施工管理技術検定、建築施工管理技術検定、車両系建設機械運転技能講習、玉掛技能講習などが挙げられています。
また、令和7年10月からは教育訓練休暇給付金が始まりました。雇用保険の被保険者が、就業規則等の制度に基づいて30日以上の無給の教育訓練休暇を取った場合に、基本手当に相当する額が支給されます。休暇開始前の被保険者期間などの要件があります。
目的別の選び方|判断表
「何のために、誰が、どんな形で学ぶか」で候補を絞ると、相談先がはっきりします。次の表は候補の目安です。最終的な可否は各窓口で確認してください。
| やりたいこと | まず検討する制度 | 相談先 |
|---|---|---|
| 社内のDX化に合わせて、業務でAIを使う研修を受けさせたい | 事業展開等リスキリング支援コース | 労働局・社労士 |
| 若手や中途社員に、職務に必要な基礎研修(10時間以上)を受けさせたい | 人材育成支援コース(人材育成訓練) | 労働局・社労士 |
| 特別教育・技能講習・技能検定の事前講習を受けさせたい | 建設労働者技能実習コース | 労働局・社労士 |
| 定額制の動画研修サービスを使わせたい | 人への投資促進コース(定額制訓練)など | 労働局・社労士 |
| 社員が自分で施工管理技士などの講座に通う | 教育訓練給付金(本人)、会社が費用負担するなら自発的職業能力開発訓練 | ハローワーク(本人)、労働局(会社) |
| 研修ではなく、AIやITツールそのものを導入したい | デジタル化・AI導入補助金(中小企業庁)など | 公募要領・事務局 |
同じ研修で複数の制度を使う場合
厚生労働省のパンフレットでは、同じ経費・賃金・訓練を対象に他の助成金や補助金を申請する場合、どちらか一方しか支給されない場合がある(併給調整)とされています。組み合わせを考えるときは、計画の前に窓口へ確認してください。
申請で失敗しないための共通ルール
人材開発支援助成金は、コースが違っても共通する考え方があります。準備の段階で次の点を押さえておくと、手戻りを減らせます。
- 訓練の前に計画届を出す多くのコースは訓練開始前の期限内に計画届が必要です。研修を受けた後から申請はできません。
- 社内の体制を整える職業能力開発推進者の選任と、事業内職業能力開発計画の策定・周知が前提になります。
- 研修費は会社が全額負担する支給申請までに訓練経費を全額支払う必要があります。返金や協力金を受け取ると要件を満たしません。
- 勤務時間内に行い、賃金を払う賃金助成は所定労働時間内の訓練が対象です。記録として出勤簿や賃金台帳が必要です。
- 期限内に支給申請する支給申請には期限があります。事業展開等リスキリング支援コースは訓練終了日の翌日から2か月以内です。
厚生労働省は、「助成金で研修が実質無料になる」とうたう勧誘に注意するよう呼びかけています。助成金は払った経費の一部を助成する制度で、利益が出る仕組みではありません。
申請書類の作成や提出代行を報酬を得て行えるのは社会保険労務士です。建設AIシフト(株式会社Digital&)は申請代行は行いません。社労士のご紹介と、研修カリキュラムなど研修側で用意できる資料の準備補助まで対応します。
AIで楽にする方法|相談メモを作る
労働局や社労士に相談するときは、「誰に・何の業務のために・どんな研修を・いつ」受けさせたいかを1枚にまとめておくと話が早く進みます。次のプロンプトで、社内のメモから相談用の整理表を作れます。個人名は入れず、職種や人数で書いてください。
コピーして使えるプロンプト
あなたは中小建設会社の総務担当を支えるアシスタントです。 次の研修の予定を、労働局や社会保険労務士に相談するための表に整理してください。 【会社の概要】例:土木・建築の工事業、従業員【 】名 【受講予定者】例:現場代理人3名、工務事務2名(雇用形態も) 【研修の目的と、使う業務】例:作業日報と工程表の作成にAIを取り入れる 【研修の形】例:オンラインで講師と質疑応答できる形式、2時間×6回 【希望時期】例:【 】月開始 【検討中の制度】例:人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース) 出力は次の順にしてください。 1. 研修の概要(5行以内) 2. 受講者ごとの業務と研修内容の結びつき(表) 3. 相談時に確認したい質問のリスト(10個以内) 4. 手元に用意しておく資料のリスト 制度の対象になるかどうかは断定しないでください。
出力イメージ(例)
1. 研修の概要 工事部の現場代理人と工務事務の計5名に、作業日報と工程表の 作成でAIを使う研修(オンライン・同時双方向型、計12時間)を予定。 3. 相談時に確認したい質問 ・今回の内容は、改正後の「具体的な業務に直結」に当たるか ・事業内訓練と事業外訓練のどちらとして計画するか ・計画届の提出期限と、必要な添付書類 ・研修費とツール導入費をどう分けて書類にするか 4. 用意する資料 ・カリキュラム(各回の日時・内容・時間) ・受講者の雇用契約書、就業規則、事業内職業能力開発計画 ※説明用の例です。
出力はあくまで相談用の下書きです。制度の要件は最新のパンフレットで確認し、判断は窓口に委ねてください。研修内容の組み立て方は生成AI研修の選び方で紹介しています。
注意
この記事の内容は、2026年9月30日時点で確認した厚生労働省・中小企業庁の公表資料に基づきます。助成率・限度額・要件は年度途中でも変わることがあります。申請前に必ず最新のパンフレット・支給要領を確認し、労働局やハローワークに相談してください。受給できるか、いくら受給できるかは個別の審査で決まります。
制度選びのチェックリスト
- 申請するのが「会社」か「社員本人」かを決めた
- 研修の目的と、使う業務・受講者を具体的に書き出した
- 研修の形(通学、オンライン同時双方向、eラーニング、定額制)を確認した
- 候補のコースの最新パンフレットを厚生労働省のページで開いた
- 計画届の提出期限から逆算して、研修の開始日を決めた
- 研修費を会社が全額負担できるか、返金などの条件がないか確認した
- 研修費とツール導入費を分けて見積もってもらった
- 労働局・ハローワーク・社労士のどこに相談するか決めた
よくある質問
リスキリングに使える助成金にはどんなものがありますか?
会社向けには厚生労働省の人材開発支援助成金があり、人材育成支援コース、人への投資促進コース、事業展開等リスキリング支援コースなどに分かれています。建設業向けには建設労働者技能実習コースと建設労働者認定訓練コースがあります。個人向けには教育訓練給付金があります。
個人でもリスキリングの支援を受けられますか?
雇用保険の加入期間などの要件を満たせば、厚生労働大臣の指定講座を受講・修了したときに教育訓練給付金を受け取れます。申請先は住所を管轄するハローワークです。
研修が終わってから助成金を申請できますか?
人材開発支援助成金は、原則として訓練開始前に計画届を出す必要があります。事業展開等リスキリング支援コースは訓練開始日の6か月前から1か月前まで、建設労働者技能実習コースは原則3か月前から1週間前までです。
特別教育や技能講習にも助成金は使えますか?
建設事業主の場合、建設労働者技能実習コースで、安衛法の特別教育や技能講習などが助成対象として示されています。対象となる講習の範囲は支給要領で確認してください。
AIツールの導入費用は助成金の対象になりますか?
人材開発支援助成金は研修のための制度で、厚生労働省はAIツール導入費用は対象経費ではないとしています。ツール導入には中小企業庁のデジタル化・AI導入補助金など、別の制度があります。
まとめ
- リスキリングの支援は、会社向けの人材開発支援助成金と、本人向けの教育訓練給付金に分かれます。
- 会社向けは目的に応じてコースを選びます。AI研修なら事業展開等リスキリング支援コースが主な候補です。
- 建設会社は、特別教育や技能講習に使える建設労働者技能実習コースも確認しましょう。
- どの制度も、事前の計画届・全額負担・期限内の申請が基本です。
- 申請手続きは自社か社労士が行います。建設AIシフトは社労士の紹介と資料準備の補助まで対応します。
AI導入全体の進め方は建設会社のAI導入の進め方、人材確保の考え方は建設業の人手不足の現状と対策もあわせてご覧ください。
研修と支援制度を含めたAI導入の全体像を確認
「建設会社のためのAI書類自動化ガイド(全24ページ)」では、自動化できる業務の一覧、導入スケジュール、料金と使える支援制度、セキュリティの考え方をまとめています。社内で制度を検討するときの資料としてお使いください。
参考・出典(2026年9月30日確認)
