工事が赤字になる原因は、大きく「受注したときの見積」「着工前の実行予算」「施工中の増減」の3つの段階に分けられます。完成してから赤字に気づいても、打てる手はほとんど残っていません。大切なのは、工事の途中に出る「赤字のサイン」を数字で見つけ、追加・変更の協議や発注の見直しを間に合うタイミングで行うことです。
中小建設会社の営業利益率は、もともと高くありません。1件の大きな工事の赤字が、その年の会社全体の利益を消してしまうこともあります。赤字工事を「運が悪かった」で終わらせず、どの段階で何が起きたかを分けて振り返ると、次の工事の打ち手が見えてきます。
この記事では、工事が赤字になる原因を段階ごとに整理し、工事中に気づくための5つのサインと判定の目安、気づいたときの打ち手、受注前の予防策を、架空の工事の数字で解説します。
この記事でわかること
- 中小建設会社の利益率の実態と、1件の赤字工事が会社に与える影響
- 工事が赤字になる原因を、受注・実行予算・施工中の3段階で整理
- 工事中に赤字に気づくための5つのサインと、判定の目安
- 赤字のサインに気づいたときの打ち手(変更協議・価格変動の協議・発注の見直し)
- 受注前と着工前にできる予防策
受注残・着地見込みの粗利・原価消化率・未入金など、社長が毎月見る工事の数字と読み方をまとめた指標集をお届けします。
中小建設会社の利益率と、赤字工事の重さ
一般財団法人建設業情報管理センター(CIIC)が2026年2月に公表した「建設業の経営分析(令和6年度)」では、中小建設会社など43,099社の売上高営業利益率の平均は1.20%でした。業種別では建築工事業が▲0.03%、売上高5,000万円未満の会社は▲7.10%と、平均でマイナスになっている区分もあります。
| 区分(令和6年度) | 売上高営業利益率 |
|---|---|
| 全体 | 1.20% |
| 設備工事業 | 2.53% |
| 土木建築工事業 | 1.53% |
| 土木工事業 | 0.98% |
| 職別工事業 | 0.35% |
| 建築工事業 | ▲0.03% |
※出典:一般財団法人建設業情報管理センター「建設業の経営分析(令和6年度)」。平均は各社の比率から外れ値を除いて計算した値(トリム平均)です。
年間の完成工事高が6億円の会社で、営業利益の目標が3,600万円だとします。このとき、請負金額5,000万円の工事1件で粗利の見込みが10%から0%に落ちると、粗利が500万円減り、会社の営業利益の目標の約14%が1件で消える計算です(説明用の架空の例)。工事の数が少ない会社ほど、1件の赤字の影響は大きくなります。
工事が赤字になる原因|3つの段階で整理する
赤字の原因は、どの段階で起きたかで分けると、打ち手が変わります。
| 段階 | よくある原因 | 数字に表れるところ |
|---|---|---|
| ① 受注時(見積) | 過去の単価のまま見積もった/数量の拾い漏れ/「一式」の中身があいまい/受注を優先して値引きした/現場の条件(搬入・夜間・狭さ)を見込んでいない | 見積時の粗利率がもともと低い |
| ② 着工前(実行予算) | 発注先を決めたら単価が上がった/見積で抜けていた工種が見つかった/工程を組み直したら仮設・重機の期間が延びた | 見積時→実行予算で粗利率が下がる |
| ③ 施工中 | 指示された追加・変更の代金が決まっていない/手戻り・やり直し/天候や前工程の遅れで人工が増えた/資材価格が上がった/事故・近隣対応 | 実行予算→着地見込みで粗利率が下がる |
1件の工事の粗利率を「見積時・実行予算・着地見込み」の3つで記録しておくと、赤字がどの段階で生まれたかが分かります(粗利率とは?で解説)。①②で下がる会社は見積と受注判断の問題、③で下がる会社は施工中の管理と変更協議の問題が中心です。
原価割れの契約は、受注者側も禁止に
2025年12月12日に完全施行された改正建設業法により、受注する建設業者も、正当な理由がある場合を除き、通常必要と認められる原価に満たない金額で請負契約を結んではならないことになりました(建設業法第19条の3第2項)。正当な理由の例として、自社で保有する安い資材を使える場合、先端技術などで原価を下げられる場合、緊急の必要その他やむを得ない事情がある場合が、省令で示されています。「赤字でも受ける」判断は、これまで以上に根拠を持って行う必要があります(建設業法改正のポイントで解説)。
工事中に赤字に気づくための5つのサイン
施工中の赤字は、毎月の締めの数字にサインが出ます。次の5つを、施工中の全工事で毎月確認します。目安の数字は、会社の工事の種類に合わせて決めてください。
| サイン | 見る数字 | 判定の目安(例) |
|---|---|---|
| 1. 原価が出来高より先に進んでいる | 原価消化率(累計発生原価÷実行予算原価)と出来高率 | 原価消化率が出来高率を5ポイント以上上回る |
| 2. 予算の残りが足りない | 予算の残り(実行予算原価−累計発生原価−発注残)と、まだ発注していない工事の原価の見込み | 未発注の工事の見込みが、予算の残りを上回る(足りない分はそのまま粗利の減少になる) |
| 3. 人工が計画を超えている | 出面の延べ人工と、実行予算の人工 | 工種の人工が、出来高に見合う人工より15%以上多い |
| 4. 代金の決まっていない追加・変更がある | 追加・変更の指示の件数と、金額の合意の状況 | 指示から2週間以上、金額が合意できていないものがある |
| 5. 着地見込みが続けて悪化している | 着地見込みの粗利率の推移 | 2か月続けて下がった、または実行予算から2ポイント以上下がった |
記入例|10月締めの4つの工事
架空の建築会社の10月締めの数字です。※説明用の架空の例です(単位:千円・税抜)。
| 工事 | 出来高率 | 原価消化率 | 実行予算の粗利率 | 着地見込みの粗利率 | サイン |
|---|---|---|---|---|---|
| A社 倉庫新築(請負180,000) | 40.0% | 46.0% | 16.0% | 13.5% | 1・2・5 |
| B社 事務所改修(請負42,000) | 90.0% | 88.0% | 18.0% | 18.5% | なし |
| C社 工場耐震補強(請負65,000) | 40.0% | 47.0% | 20.0% | 18.5% | 1・2・3 |
| E社 店舗内装(請負18,000) | 95.0% | 101.7% | 15.0% | 9.0% | 1・2・4・5 |
A社 倉庫新築は、鉄骨の単価上昇と基礎の追加補強で原価が出来高より6.0ポイント先行し、着地見込みの粗利率が実行予算から2.5ポイント下がっています。C社 工場耐震補強は、粗利率の低下は1.5ポイントですが、夜間作業の時間外で人工が増え、原価が7.0ポイント先行しています。E社 店舗内装は、完成間近で原価消化率が100%を超え、粗利率が6.0ポイント下がっています。施主の仕様変更の追加費用も、指示から4週間たって未合意です。サインが2つ以上重なった工事から、原因と打ち手を予実会議で決めます。原価消化率と出来高率の比べ方は出来高とは?、人工の数え方は人工とは?で解説しています。
赤字のサインに気づいたときの打ち手
| 原因 | 打ち手 |
|---|---|
| 追加・変更の工事 | 指示の内容・日付・指示した人を記録し、着手前に金額を協議する。合意した内容は書面(変更契約)に残す |
| 資材・労務の価格の上昇 | 契約書の価格変動の条項にもとづいて、請負代金の変更を協議する。2024年12月の改正で、契約書に価格変動による請負代金の変更方法を書くことが必要になり、注文者には誠実に協議に応じる努力義務が課された |
| 人工の増加 | 工程と段取りを見直す。協力会社と人工の見込みを確認し、手待ちや手戻りの原因を取り除く |
| 発注の単価 | まだ発注していない工種の発注先・仕様を見直す。発注前に予算の残りと照らし、超える発注は承認制にする |
| 手戻り・やり直し | 原因(図面の不整合・指示の伝達漏れ・品質不良)を記録し、費用の負担を関係者と協議する |
どの打ち手も、早いほど選べる手が多いのが共通点です。完成間際では、発注はほぼ終わり、変更協議の材料も残っていません。追加・変更を請求し漏らさない方法は出来高とは?の記事の請求の流れもあわせて確認してください。
受注前と着工前にできる予防策
- 見積原価を積み上げで出す過去の工事の実績単価・数量と、現場の条件(搬入・夜間・狭さ)を積み上げて見積原価を出す。「一式」の中身を書き出す。
- 受注の判断ラインを決める見積時の粗利率が目標を下回る工事は、社長の承認を必要にする。受ける理由と、原価割れになっていないことの根拠を記録する。
- 着工前に実行予算を組む発注先・工法・工程を決めて原価を組み直し、見積との差を確認する(見積原価と実行予算の違いで解説)。
- 契約書の条項を確認する追加・変更の扱い、価格変動による請負代金の変更方法、部分払の条件を、着工前に確認する。
- 毎月の締めで5つのサインを見る施工中の全工事の数字を同じ形の一覧にし、予実会議で確認する(予実管理とは?で解説)。
AIとシステムで赤字のサインを早く見つける
工事の数が増えると、毎月全工事の数字を見比べるだけで手間がかかります。AIは、Excelやシステムで計算済みの一覧から、サインが出ている工事を挙げる作業に向いています。原価消化率や着地見込みの計算はExcel(またはシステム)で行い、AIに計算させないのが原則です。
コピーして使えるプロンプト(赤字のサインの点検)
あなたは建設会社の工事部長の補佐です。 次の表は、施工中の工事の10月締めの一覧で、Excelで計算済みです。 数字は変更せず、計算もし直さずに、表の値をそのまま使ってください。 # 判定の目安 1. 原価消化率が出来高率を5ポイント以上上回る 2. まだ発注していない工事の原価の見込みが、予算の残りを上回る 3. 人工が出来高に見合う人工より15%以上多い 4. 指示から2週間以上、金額が合意できていない追加・変更がある 5. 着地見込みの粗利率が2か月続けて下がった、または実行予算から2ポイント以上下がった # お願いしたいこと ・工事ごとに当てはまるサインの番号を挙げ、2つ以上当てはまる工事を上に並べる ・その工事について、表の「メモ」に書かれた事実を1行でまとめる ・予実会議で決めるべきことを、質問の形で1つずつ書く ・表に書かれていない原因は推測で書かず【要確認】とする # 工事一覧(Excelから貼り付け) 【工事名/請負金額/出来高率/原価消化率/予算の残り/未発注の工事の見込み/人工の超過率/未合意の追加・変更(件数・経過日数)/実行予算の粗利率/前月と今月の着地見込みの粗利率/メモ】
見積・実行予算・発注・出面・原価が工事番号でつながっていれば、5つのサインは締めのたびに自動で一覧にできます。建設AIシフトの業務一元管理は、見積から支払までを工事番号で一元管理し、工事ごとの着地見込みと注意が必要な工事をいつでも見られるようにするオーダーメイドのシステムです。
AIやシステムに任せないこと
- 判定の目安の決定(会社の工事の種類と規模に合わせて経営が決める)
- 残工事の見込みと原因の判断(現場を見ている現場代理人が決める)
- 発注者・協力会社との変更協議と、受注するかどうかの判断
注意
記入例の会社・工事・数値、判定の目安は、すべて説明用の架空の例です。利益率の統計は一般財団法人建設業情報管理センター、建設業法の内容はe-Gov法令検索と国土交通省の公表資料を、2026年10月29日に確認したものです。契約・法令の判断は、契約書の内容と専門家の助言にもとづいて行ってください。取引先名や金額をAIに入力する場合は、社内ルールと利用するサービスの規約を確認してください。
赤字工事を防ぐチェックリスト
- 見積原価を、実績の単価と数量の積み上げで出している
- 見積時の粗利率が目標を下回る工事は、承認を必要にしている
- 原価割れで受注する場合の根拠を記録している
- 着工前に実行予算を組み、見積との差を確認している
- 契約書の追加・変更と価格変動の条項を、着工前に確認している
- 追加・変更の指示を、その日のうちに記録している
- 毎月の締めで、施工中の全工事の5つのサインを確認している
- 赤字になった工事の原因を、3つの段階に分けて振り返っている
工事の赤字でよくある質問
工事が赤字になる原因は何ですか?
受注時の見積の甘さ(単価・数量・現場条件の見込み違い、値引き)、着工前の実行予算での原価の上昇(発注単価・見積漏れ)、施工中の増減(代金の決まらない追加・変更、手戻り、人工の増加、資材の値上がり)の3つの段階に分けられます。
工事の赤字に早く気づく方法は?
毎月の締めで、原価消化率と出来高率の差、予算の残りと未発注の工事の見込み、人工の超過、未合意の追加・変更、着地見込みの粗利率の推移の5つを確認します。2つ以上当てはまる工事は、予実会議で原因と打ち手を決めます。
赤字とわかっていて工事を受注してもよいですか?
2025年12月12日から、受注する建設業者も、正当な理由がある場合を除き、通常必要と認められる原価に満たない金額で請負契約を結んではならないとされています。受注する場合は、正当な理由にあたるかを確認し、根拠を記録してください。
資材が値上がりしたときは、請負代金を変えられますか?
契約書に定めた価格変動の条項にもとづいて、請負代金の変更を協議できます。2024年12月の改正で、契約書に価格の変動による請負代金の変更方法を記載することが必要になり、注文者には誠実に協議に応じる努力義務が課されました。
中小建設会社の利益率の平均は?
建設業情報管理センターの「建設業の経営分析(令和6年度)」では、中小建設会社など43,099社の売上高営業利益率の平均は1.20%、売上高総利益率(粗利率)の平均は26.50%です。
まとめ
- 中小建設会社の営業利益率の平均は1.20%。1件の赤字工事が会社の利益を大きく削る
- 赤字の原因は「受注時」「実行予算」「施工中」の3段階に分け、粗利率を3つの時点で記録して振り返る
- 工事中は、原価の先行・予算の残り・人工・未合意の追加変更・着地の悪化の5つのサインを毎月見る
- 打ち手は早いほど多い。追加・変更と価格変動は、記録と書面での協議が出発点
- 2025年12月から、受注者側の原価割れ契約も原則禁止。受注判断は根拠を残して行う
赤字のサインを、毎月同じ物差しで見ませんか
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