建設業の原価管理ソフトを比べる前に決めておきたいのは、工事番号の付け方、原価の区分、原価を計上する時期と締め日、実行予算の組み方、出来高と請求の計算式といった、自社の「原価のルール」です。ルールが決まっていないまま製品を比べると、どの製品も「できます」と言い、導入してから自社の帳票や締めの流れに合わないことに気づく、ということが起きます。
原価管理ソフト選びで大切なのは、機能の多さではなく、自社のルールで工事の原価が締め日どおりに出るかどうかです。そのためには、比べる前に、自社の業務と計算を書き出しておく必要があります。
この記事では、原価管理ソフトを比べる前に決める10のこと、要件の書き方(悪い例と良い例)、候補を同じ物差しで点数化する比較表の作り方を、架空の建築会社の記入例と、そのまま使える要件整理シート(Excel)で解説します。
この記事でわかること
- 原価管理ソフトの種類と、比べる前にルールを決める理由
- 工事番号・原価の区分・計上の時期・締め日など、先に決める10のこと
- デモで確かめられる、要件の書き方(悪い例と良い例)
- 要件に重みをつけて、候補を点数化する比較表の作り方
- 点数だけで決めないための、費用と体制の確認ポイント
この記事の記入例を入れた「要件整理シート」(業務の流れ・帳票・締め日・計算式・要件・比較表・段階導入の7シート、記入例入り・空欄)と、書き方の解説資料をお届けします。
原価管理ソフトの種類|比べる前に知っておくこと
建設業の原価管理に使われるソフトは、大きく次の4つに分かれます。
| 種類 | 特徴 | 向いている会社 |
|---|---|---|
| 会計ソフトの工事別管理(部門・プロジェクト機能) | 仕訳に工事番号を付けて、工事ごとの原価を集計する | 工事の数が少なく、原価を会計の数字で見られれば足りる |
| 建設業向けの工事原価管理ソフト | 実行予算・発注・原価・工事台帳を管理する専用のソフト | 工事ごとの予算と原価の比較を、締めのたびに見たい |
| 建設業向けの基幹システム(ERP) | 見積から会計までを1つの仕組みで管理する | 部署が多く、入力の重複をなくしたい |
| オーダーメイド(業務管理システム) | 自社の帳票・締め日・計算式に合わせて、必要な業務をつなぐ | 独自のルールが多く、パッケージに合わせると手間が増える |
どの種類がよいかは、会社のルールと困りごとで決まります。種類ごとの違いは工事管理システムとは?で詳しく解説しています。この記事では、どの種類を選ぶにしても先に決めておく必要があることを整理します。
原価管理ソフトを比べる前に決める10のこと
架空の建築会社(社員約30名・年間完成工事高 約6億円)の記入例とあわせて示します。※記入例はすべて架空です。
| 決めること | 記入例(今のルール→求めること) | 関連する記事 |
|---|---|---|
| 1. 工事番号の付け方 | 年-連番(2026-014)。変更工事も同じ番号→変更工事は枝番(2026-014-1)で分ける | 予実管理 |
| 2. 原価の区分 | 材料費・労務費・外注費・経費+細目→工事台帳と会計ソフトの科目をそろえる | 労務費とは? |
| 3. 実行予算の階層 | 工種だけ→工種・細目の2段で組み、見積の内訳から取り込む | 実行予算とは? |
| 4. 原価を計上する時期 | 請求書が届いた月→納品・出面で発生した月に計上し、届いていない分は見込みで計上 | 原価管理のやり方 |
| 5. 締め日 | 原価は月末締め、協力会社は末日と20日が混在→協力会社ごとに締め日を設定し、締め期間で集計 | 出面表とは? |
| 6. 発注と予算の照合 | 50万円以上は口頭で承認→予算の残りを超える発注は承認が必要 | |
| 7. 労務費の入れ方 | 社員の作業員の給料は販管費→日報の人工×日額原価で工事に配る | 人工とは? |
| 8. 出来高と請求 | 民間(甲)型の式・率9/10→工事ごとに部分払の率と式を設定 | 出来高とは? |
| 9. 帳票 | 注文書・工事台帳・請求書・支払明細はExcel→今と同じ項目で出力できる | |
| 10. 見る人と権限 | 全員が同じExcelを見る→協力会社・現場・経理・経営で見る範囲を分ける |
このうち、1(工事番号)・2(原価の区分)・4(計上の時期)は、どのソフトを選んでも最初に決める必要があり、あとから変えると過去のデータと比べられなくなります。会計上の扱い(完成工事高の計上基準、原価の区分など)は、顧問税理士と確認して決めます。
要件の書き方|デモで確かめられる文にする
決めたルールは、ソフトに求めること(要件)として書き出します。このとき、あいまいな書き方をすると、どの製品も「できます」と答えられてしまい、比べられません。
| 悪い例 | 良い例 |
|---|---|
| 原価が分かる | 締め日から5営業日以内に、工事ごとの実行予算・発注残・発生原価・着地見込みを1画面で見られる |
| 予算管理ができる | 発注のときに実行予算の残りが表示され、超える場合は工事部長の承認がないと注文書を出せない |
| 協力会社の支払に対応 | 協力会社ごとに締め日(20日・末日)を設定し、出面・発注と照合した支払明細を作れる。控除は合意したものだけを設定できる |
| 出来高請求ができる | 工事ごとに部分払の率と式(民間(甲)型・公共型)を設定し、出来高調書と請求書を同じ数字で作れる |
| 使いやすい | 職長が現場からスマホで、日報と出面を1回の入力で記録できる(1日5分程度) |
良い例は、だれが・いつ・何を・どの形でが書いてあり、デモで「できる・できない」を確かめられます。要件ごとに「必須」「あったらよい」「不要」を決め、理由も書いておくと、社内で優先度の話がしやすくなります。
計算式と記入例も渡す
デモの前に、Excelで使っている計算式と、実際の工事に近い記入例を候補の会社に渡します。たとえば次のような計算です。
| 計算 | 式 | 記入例 |
|---|---|---|
| 着地見込み原価 | 累計発生原価+残工事の見込み | 69,500+86,200=155,700(千円) |
| 原価消化率 | 累計発生原価÷実行予算原価 | 69,500÷151,200=46.0% |
| 今回請求額(部分払) | 累計出来高×0.9×(1−前払金÷請負代金額)−前回までの請求額 | 51,840−34,328=17,512(千円) |
| 常用代 | 人工×全日単価+時間外の時間×時間外単価 | 68.0×40,000+18×6,300=2,833,400円 |
デモで同じ数字が出るかどうかを見れば、計算の考え方が合うかが分かります。数字が違ったら、どこが違うのか(端数処理・前払金の扱い・締め期間など)を確認します。
候補を同じ物差しで比べる|比較表の作り方
要件の一覧ができたら、候補ごとに◎○△×で評価し、重みをかけて点数にします。要件整理シートの初期値は次のとおりです。
| 重み | 評価 |
|---|---|
| 必須=3、あったらよい=1、不要=0 | ◎=2(そのまま使える)、○=1(設定で対応)、△=0.5(運用で補う・追加費用)、×=0(対応できない) |
記入例の会社の要件13個(必須9・あったらよい3・不要1)で、3つの候補を評価した結果です。※候補の評価・費用はすべて架空の例です。
| 候補A(パッケージ) | 候補B(クラウド) | 候補C(オーダーメイド) | |
|---|---|---|---|
| 点数(満点60) | 26.5 | 33.0 | 48.0 |
| 達成率 | 44.2% | 55.0% | 80.0% |
| 必須なのに×の数 | 1(現場からの日報・出面の入力) | 1(協力会社ごとの締め日の設定) | 0 |
| 5年間の費用(千円) | 7,800 | 6,800 | 9,900 |
この例では、点数は候補Cが高い一方で、5年間の費用はいちばん大きくなっています。候補A・Bは必須の要件に×が1つずつあり、そのままでは条件を満たしません。次に確認するのは、×の要件を運用で補えるか(別のアプリを組み合わせるなど)、追加の費用で対応できるかです。
点数だけで決めないための確認ポイント
- 費用は5年間の総額で比べる:初期費用・月額・保守・データ移行・社内の教育を含める。使う人数が増えたときの月額も確認する
- 入力する人の手間:締めのたびに、だれが何件入力するか。現場の入力が増えすぎないか
- 導入と保守の体制:導入を担当する人、問い合わせの窓口、法改正や業務の変更への対応の仕方
- 段階的に始められるか:最初は原価と工事台帳だけ、など、効果の大きい業務から始められるか
- データを持ち出せるか:やめるとき・乗り換えるときに、工事・原価のデータをExcelなどで書き出せるか
要件整理シートの使い方
ダウンロードできる要件整理シートは、次の7シートでできています。上から順に書いていくと、比べる前の準備がそろいます。
| シート | 書くこと |
|---|---|
| 1. 業務の流れ | 見積から決算までの業務、担当、今のツール、1回の時間と月の回数(月の時間は自動)、困りごと、優先度 |
| 2. 帳票一覧 | 帳票ごとの作る人・渡す先・主な項目・今の形、システムで作るか |
| 3. 締め日とルール | 工事番号・締め日・計上の時期・承認など、今のルールと求めること |
| 4. 計算式 | Excelで使っている計算式と記入例 |
| 5. 要件一覧 | 要件の文、区分(必須・あったらよい・不要)、理由。重みは自動 |
| 6. 比較表 | 候補ごとの◎○△×の評価。点数・達成率・必須なのに×の数・5年間の費用は自動 |
| 7. 段階導入 | 最初に導入する業務と、その後の順番・期間・完了の目安 |
記入例の会社では、業務の流れを書き出したところ、見積・出来高と請求・日報と出面・原価の締めに、毎月合わせて80時間以上かかっていることが分かりました(記入例の数字)。どの業務から仕組みにするかを決めるときの材料になります。段階的な導入の進め方は建設業のERP・基幹システムとは?で解説しています。
AIを要件の整理に使う
要件の整理では、AIを「聞き役」として使うと、書き漏れが減ります。今の業務の困りごとを箇条書きで渡し、要件の文に直してもらう、といった使い方です。AIが出した要件は、そのまま採用せず、社内で「本当に必要か」を確かめてから要件一覧に入れます。
コピーして使えるプロンプト(困りごとを要件の文に直す)
あなたは建設会社の業務システムの導入を手伝う担当者です。 次の「困りごと」を、システムに求める要件の文に書き直してください。 # ルール ・1つの困りごとから、要件を1〜3個つくる ・要件は「だれが・いつ・何を・どの形で」が分かる文にする ・数字(日数・時間・金額の基準)は、困りごとに書かれているものだけを使い、 分からない数字は【要確認】とする ・特定の製品名は書かない ・最後に、要件ごとに「必須」「あったらよい」の案と、その理由を1行で書く # 困りごと ・請求書が揃うまで原価が締まらず、工事ごとの原価が1か月遅れる ・発注のときに、実行予算の残りと照らしていない ・日報と出面を、紙に二重に書いている
建設AIシフトの業務一元管理は、要件整理シートのような業務の流れ・帳票・締め日・計算式の整理から始め、必要な業務だけを工事番号でつなぐオーダーメイドのシステムです。
注意
記入例の会社・要件・候補の評価・費用は、すべて説明用の架空の例です。個々の製品の機能・費用は、各社の資料とデモで確認してください。原価の区分や計上基準など会計・税務の判断は、顧問税理士に確認してください。社内の資料をAIに入力する場合は、社内ルールと利用するサービスの規約を確認してください。
比べる前のチェックリスト
- 工事番号の付け方(枝番・変更工事)を決めた
- 原価の区分(材料費・労務費・外注費・経費と細目)を会計とそろえた
- 原価を計上する時期(発生月)と締め日を決めた
- 実行予算の階層と、見積の内訳との対応を決めた
- Excelで使っている計算式と記入例を書き出した
- 要件を「だれが・いつ・何を・どの形で」の文で書いた
- 要件を「必須」「あったらよい」「不要」に分け、理由を書いた
- デモで自社の記入例を入れ、同じ数字が出るかを確かめた
- 5年間の総額と、入力する人の手間で比べた
- 最初に導入する業務を決めた
原価管理ソフト選びでよくある質問
原価管理ソフトを比べる前に何を決めればよいですか?
工事番号の付け方、原価の区分、原価を計上する時期と締め日、実行予算の階層、発注と予算の照合、労務費の入れ方、出来高と請求の計算式、帳票、見る人と権限の10項目です。特に工事番号・原価の区分・計上の時期は、あとから変えると過去のデータと比べられなくなります。
原価管理ソフトの比較表はどう作ればよいですか?
要件を「必須」「あったらよい」「不要」に分けて重み(例:3・1・0)をつけ、候補ごとに◎○△×で評価して、重みをかけた点数にします。必須の要件で×がある候補は、点数が高くてもそのままでは条件を満たさないため、別に数えておきます。
会計ソフトだけで原価管理はできますか?
仕訳に工事番号を付ければ、工事ごとの原価の集計はできます。ただし、実行予算との比較、発注の残り、着地見込み、出来高・請求との連動などは、会計ソフトだけでは手作業が残ることが多く、工事の数や管理したい内容によって判断します。
デモでは何を確認すればよいですか?
自社の実際の工事に近い記入例(実行予算・発注・原価・出来高など)を事前に渡し、同じ数字が出るかを確認します。あわせて、締めのたびにだれが何を入力するか、今の帳票と同じ項目で出力できるかを見ます。
まとめ
- 原価管理ソフトは、機能の多さではなく、自社のルールで原価が締め日どおりに出るかで選ぶ
- 比べる前に、工事番号・原価の区分・計上の時期など10のことを決める
- 要件は「だれが・いつ・何を・どの形で」の文で書き、デモで確かめられるようにする
- 要件に重みをつけて点数化し、必須なのに×の数・5年間の費用・入力の手間もあわせて判断する
- 計算式と記入例を渡し、デモで同じ数字が出るかを確かめる
要件整理シートで、比べる前の準備を整えませんか
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