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既存事業の周辺から探す
顧客の要望の「なぜ」を考える
新規事業のアイデアを考える際に、既存の顧客の声を深掘りすることは有効な手法です。日々の営業活動やカスタマーサポートの中で、「こういう機能があればいいのに」「こういう商品が欲しい」といった要望を耳にすることは少なくありません。しかし、単にその声に応えるだけでは新規事業としての可能性は限定的です。大切なのは、「なぜその機能が必要なのか?」「本当に解決すべき課題は何か?」を探ることです。
例えば、あるメーカーでは、顧客が特定の部品の改良を求めていました。しかし詳しくヒアリングすると、単なる部品の改善ではなく、業務フローそのものを変えなければ根本的な課題が解決しないことが分かりました。このように、要望の背景にある課題を見つけることで、より大きなビジネスチャンスが生まれる可能性があります。
顧客の要望を深掘りするためには、アンケート調査やインタビューだけでなく、実際の業務現場を観察することも有効です。顧客自身が気づいていない潜在的な課題を発見できれば、それを解決する新規事業のヒントにつながるでしょう。
意外な受注データを見つける
普段の売上データを分析すると、主要な顧客層とは異なる業種や用途で商品・サービスが利用されているケースが見つかることがあります。こうした「異質な受注」は、新たな市場ニーズの手がかりとなる可能性があります。
例えば、ある清掃ロボットのメーカーが、工場向けに開発した製品を販売していました。しかしデータを詳しく見てみると、一部の温浴施設からの発注があることに気づきました。問い合わせてみると、工場の床掃除ではなく、浴場の壁面のカビ防止に使いたいというニーズがあったのです。このような「想定外の用途」を発見することで、新しい事業展開のチャンスが広がります。
この手法を活用するには、売上データを細かく分類し、通常の顧客層とは異なる購買傾向を持つ事例を洗い出すことが重要です。さらに、そうした顧客に直接ヒアリングを行い、「なぜ自社の商品を選んだのか?」を深掘りすることで、他にも似たようなニーズを持つ潜在市場を発見できるかもしれません。
シーズから探す
どのシーズに着目するか?
自社が持つ技術やノウハウ(シーズ)を活用して新規事業を立ち上げる際には、どのシーズに注目すべきかを慎重に見極めることが重要です。すべての技術が市場で成功するわけではなく、競争優位性の高いものや応用範囲の広いものを選ぶ必要があります。
例えば、特許を取得している技術は模倣されにくいため、長期的な競争力を確保しやすくなります。また、1つの用途に限らず、複数の分野で活用できる技術は、新たな市場展開の可能性が高まります。たとえば、ある企業が開発した抗菌コーティング技術が、もともとは医療機器向けに開発されたものでしたが、食品包装や家具業界でも活用され、新たな市場が開けた事例があります。
シーズ起点の事業開発では、技術の棚卸しを行い、社内外の専門家と意見を交わしながら、どの技術がビジネスに適しているかを評価することが重要です。また、技術にこだわりすぎず、「この技術がどんな価値を生み出せるか?」という視点を持つことが、成功の鍵となります。
機能から市場ニーズを考える
シーズ起点での事業開発では、「この技術をどう活かすか?」という発想だけでなく、「この技術が提供する機能がどんな市場ニーズを満たせるか?」を考えることが重要です。技術の特徴そのものよりも、それが解決できる課題にフォーカスすることで、より実現性の高い事業アイデアが生まれます。
例えば、ある企業が開発した「超撥水加工」の技術があるとします。この技術自体を売り込むのではなく、「水を弾くことで何ができるか?」という視点で考えた場合、汚れにくい衣類、雨天でも曇らないカメラレンズ、低メンテナンスの建材など、さまざまな応用が可能になります。
このアプローチを採用することで、「技術があるが市場がない」という課題を回避し、市場ニーズに基づいた事業展開が可能になります。技術ベースではなく、機能を軸に市場との接点を探ることで、成功の確率を高めることができるでしょう。
社会の変化点を探す
市場の成長がもたらす新規事業チャンス
新規事業を成功させるためには、成長している市場やこれから拡大が見込まれる分野を狙うことが有効です。市場が急成長している局面では、競争がまだ激化していないことが多く、新規参入のチャンスが広がっています。また、成長市場では新たな課題が生まれやすく、それを解決する新規事業の余地が生まれます。
例えば、近年ではカーボンニュートラルの推進により、環境配慮型製品や再生可能エネルギー市場が拡大しています。この流れの中で、EV(電気自動車)向けの充電インフラビジネスや、サステナブルな素材を活用した製造業が成長を遂げています。こうした市場の動きを敏感にキャッチし、新たな需要が生まれるタイミングで参入することが、事業成功のカギとなります。
市場の成長性を見極めるためには、業界レポートや政府の政策動向をチェックし、どの分野が拡大しているのかを調査することが大切です。また、業界カンファレンスや展示会に参加し、最新のトレンドを把握することで、今後のビジネスチャンスをより具体的に見つけることができるでしょう。
Covid-19がもたらした市場の変化
社会の大きな変化は、新たな市場を生み出すきっかけになります。その代表的な例が、新型コロナウイルス(Covid-19)の影響による社会変化です。このパンデミックは、多くの業界において急激な変革をもたらしました。
特に顕著な変化として、リモートワークやオンラインサービスの普及が挙げられます。これに伴い、Web会議ツールやクラウドサービスの需要が急増しました。例えば、ZoomはCovid-19の影響で爆発的に利用者が増え、ビジネスの主流ツールとなりました。また、飲食業界ではデリバリーサービスやゴーストレストラン(実店舗を持たずにデリバリー専用で営業する飲食店)の市場が拡大しました。
このように、外部環境の変化によって新たな市場が生まれることは多く、こうした変化を敏感に察知してビジネスチャンスを見つけることが重要です。今後も社会の変化を注視し、新たな需要が生まれるタイミングで柔軟に事業を展開する姿勢が求められます。
その他の視点とフレームワークの活用
成長マトリクスによる分析
新規事業を考える際には、フレームワークを活用することで、より体系的に市場を分析しやすくなります。その中でも「成長マトリクス(Ansoffマトリクス)」は、事業拡大の方向性を整理するのに役立ちます。
成長マトリクスは、「既存市場 × 既存製品」「既存市場 × 新製品」「新市場 × 既存製品」「新市場 × 新製品」の4象限に分けて、どの方向で成長戦略を取るかを決めるフレームワークです。
例えば、既存市場に対して新たな製品を投入する「新製品開発」では、既存顧客のニーズに応える形で新規事業を展開できます。一方、新市場に既存製品を展開する「市場開拓」では、海外進出や異業種向け展開といったアプローチが考えられます。
このフレームワークを活用することで、どの方向に事業を広げるべきかを明確にでき、無駄な試行錯誤を減らすことが可能になります。
PEST分析を活用する
市場環境を把握するためのもう一つの有力なフレームワークが「PEST分析」です。PEST分析は、**政治(Political)、経済(Economic)、社会(Social)、技術(Technological)**の4つの視点から、外部環境の変化を整理する手法です。
例えば、政府が特定の産業を支援する政策を発表した場合(政治要因)、その市場が拡大する可能性があります。また、経済の好不況によって消費者の購買意欲が変化するため(経済要因)、価格戦略を調整する必要が出てくるでしょう。さらに、高齢化社会の進行(社会要因)によって、ヘルスケア市場や介護関連サービスが成長する可能性もあります。
新規事業を立ち上げる際には、このように外部環境を整理し、どの分野にチャンスがあるのかを分析することが重要です。PEST分析を活用することで、単なる思いつきではなく、データに基づいた事業判断が可能になります。
ドラッカーの7つのイノベーション要因
経営学者ピーター・ドラッカーは、新規事業の創出において有効な視点として「7つのイノベーション要因」を提唱しています。これらの要因を活用することで、新たな事業機会をより効果的に発見することができます。
- 予期せぬことの発生(想定外の成功・失敗から学ぶ)
- ギャップの存在(市場や業界にある未解決の課題を探る)
- ニーズの発生(顧客の潜在ニーズを掘り起こす)
- 産業構造の変化(業界のルールが変わるタイミングを捉える)
- 人口構造の変化(高齢化や人口減少などの影響を考慮する)
- 認識の変化(価値観の変化が生み出す新たな市場を狙う)
- 新しい知識の登場(技術革新による新市場を開拓する)
例えば、「予期せぬことの発生」では、自社の製品が想定外の用途で利用されている場合、それを新規市場として開拓するチャンスがあります。また、「新しい知識の登場」では、AIやブロックチェーンといった技術革新がもたらす新市場を狙うことができます。
これらの視点を活用することで、新規事業のアイデアをより具体的に掘り下げ、実現可能性の高いビジネスモデルを構築することができます。
まとめ
新規事業を成功させるためには、単なるアイデアの発想だけでなく、戦略的な視点で市場を分析し、適切な方向性を見極めることが重要です。本記事では、新規事業の狙い目を見つけるための3つの主要アプローチとして、「既存事業の周辺から探す」「シーズから探す」「社会の変化点を探す」という視点を紹介しました。
既存事業の強みを活かしたアプローチでは、顧客の要望を深掘りしたり、意外な受注データを分析したりすることで、思わぬビジネスチャンスを発見できます。一方で、自社の技術(シーズ)を活用する場合には、その機能や応用範囲を見極め、市場ニーズと結びつけることが成功の鍵となります。また、社会の変化を捉えることで、新たなトレンドや成長市場に参入するチャンスを掴むことができます。
さらに、新規事業の可能性を広げるためには、成長マトリクスやPEST分析、ドラッカーの7つのイノベーション要因といったフレームワークを活用し、客観的な視点から事業の方向性を整理することが有効です。これらの分析手法を組み合わせることで、より確度の高い事業アイデアを導き出せるでしょう。
新規事業の開発は試行錯誤の連続ですが、適切な視点を持ち、データに基づいた判断を行うことで、成功の確率を高めることが可能です。本記事の内容を参考に、自社の強みや市場の動向を踏まえた新規事業の創出にぜひ挑戦してみてください。