人材育成における研修の在り方!設計から活用まで徹底解説

2025年7月3日 更新日2025年7月9日
人材育成における研修の在り方!設計から活用まで徹底解説

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なぜ今、企業に研修が求められているのか?

多くの企業で人材育成施策として研修が導入されていますが、現場からは「実践につながらない」「研修は意味がない」という声も聞こえてきます。実際、業務で必要なスキルは、本人が自主的に学んだり、上司がOJTで指導したりすることで身につけられる面もあります。

しかしすべての社員が自ら学ぶとは限らず、すべての上司が教える力を持っているわけでもありません。そのため、一定の教育効果を全社員に安定して提供するには、研修という仕組みが必要です。「すべての社員に必要」というわけではなく、「必要な人に適切に提供する」ことが重要なのです。

成果を引き出す研修設計の基本ステップ

① 研修の目標を立てる

すべての研修には明確な目的と目標が必要です。「何を解決したいのか」「どんな状態を目指すのか」「誰にどのような変化を期待するのか」などを具体的に定義するところから始めましょう。

会社の方向性や求める人物像を理解することはもちろん、社員がどのようなスキルや課題を抱えているのかを把握するため、事前アンケートやヒアリングも有効です。こうした情報をもとに、必要なゴールを設定し、目的に即した研修設計を進めていきます。

② 研修担当者を決める

研修の運営には適任の担当者が必要です。内製で研修を実施する場合は、参加者の理解度を確認しながら進行できる「教える力」と「場をまとめる力」がある社員が適任です。一方で、外部の研修会社に委託する場合は、社外と円滑にやりとりしつつ、研修の目的や内容を調整できる「調整力」と「企画力」に優れた担当者が求められます。

また、複数の研修を同時進行で実施する場合は、担当者を分散し、1人に過度な負荷がかからないよう役割分担することも大切です。

③ 研修方法を決める

研修の形式は、目的や受講者の状況に応じて最適な方法を選ぶ必要があります。たとえば、新入社員や内定者に対しては、OFF-JT(座学型)で基本を学ばせた後、OJT(実務型)で実践を重ねるステップ設計が効果的です

また、複数の手法を組み合わせることで理解を深めやすくなります。理論だけ、実務だけに偏らず、「学んで、試して、定着させる」プロセスを構築しましょう。

④ 研修内容を決める

研修内容は、設定した目標や企業の育成方針に沿って選定します。受講者のスキルレベルに合った内容であることも非常に重要です。やや難易度の高い内容にチャレンジさせて成長を促すのも効果的ですが、難しすぎると理解できずモチベーションが下がるおそれもあります。

受講者の「ちょうどよい負荷」で設計し、受講者の現状と将来像の間に橋を架けるような内容にしましょう。

⑤ 研修の実施

研修の効果を高めるためには、実施時の「進行の工夫」や「学びやすい環境づくり」が重要です。特にOFF-JT(座学型研修)の場合、受講者が集中して学べるように、時間配分や進行の段取りを丁寧に行うことが求められます。また、参加者の様子を見ながら、発言を引き出したり、場の雰囲気を和らげたりすることで、積極的な参加を促すようにしましょう。

一方、OJT(実務を伴う研修)の場合は、受講者が業務の中で困っていないか、疑問を抱えていないかを随時確認しながらサポートすることが大切です。実務と育成を両立させるには、担当者が寄り添いながら、小さな変化にも気づける観察力と対応力が求められます。日常業務の中で継続的なサポートができる体制を整えることで、より実践的な成長を促すことができます。

⑥ 研修の振り返り・報告書の作成

研修は「やって終わり」ではなく、振り返りまで含めて完了です。受講者には「研修受講報告書」を提出させ、学びの内容・気づき・課題・今後のアクションを言語化させます。これにより、研修効果の定着を促せます。

一方、実施側も「研修実施報告書」を作成し、研修の成果・改善点・受講者の反応などを記録します。これにより、次回の質の向上や他部門への展開にもつながります。

目的別に整理する研修の種類とは?

研修は、その目的や対象によって大きく3つに分類できます。
1つ目は、役職やキャリアステージに応じて実施される「階層別研修」。2つ目は、特定のスキルやテーマに焦点を当てた「テーマ別研修」。3つ目は、職種ごとに必要な専門スキルの習得を目的とした「職種別研修」です。

実際、多くの企業で導入されているのは階層別研修です。
厚生労働省の調査によると、新入社員や若手社員、中堅社員、管理職といった各階層ごとの研修が広く行われており、なかでも新入社員を対象とした研修の実施率は特に高い傾向にあります。
これは、ビジネスマナーや業務の基本を学ぶ機会として、初期段階での教育に重点を置いている企業が多いことを示しています。

① 階層別研修|成長段階に応じた基礎からマネジメントまでの支援

階層別研修とは、社員の等級やキャリアの段階に応じて実施される研修で、組織内で求められる役割やスキルに応じて段階的に成長を支援することが目的です。主に「新入社員」「若手社員」「中堅社員」「管理職」といったグレードごとに内容が分かれ、それぞれのフェーズに必要な知識・スキルの習得を促します。

実務経験を積み、一定の成果を上げてきた社員を対象に実施します。現場の中核を担う存在として、リーダーシップ、若手育成、部門間の調整力といった周囲を巻き込む力を強化します。また、自身の強みや課題を見直し、中長期的なキャリア設計を描くことも目的のひとつです。視野を広げ、組織全体を俯瞰できる視座の獲得を目指します。

このように、階層別研修は、各ステージで必要とされる行動や意識変革を促し、企業の人的資本の底上げを担う中心的な育成手段といえます。

② テーマ別研修:スキル習得に特化した専門研修

テーマ別研修は、特定スキルの習得を目的とした研修です。階層や職種を問わず、課題や目的に応じて誰でも受講対象となり得ます。以下は主なテーマ別研修の例です。

・ビジネスマナー研修
目的:社会人として信頼されるふるまいを身につけること。
内容:挨拶、名刺交換、敬語の使い方、電話応対、身だしなみなど、基本的なマナーを習得。
効果:社内外での印象が向上し、ビジネスの場面で信頼を得やすくなる。

・ロジカルシンキング研修
目的:物事を筋道立てて考える力を養い、業務効率や課題解決力を高める。
内容:論理構造の把握、因果関係の整理、問題分析、論理的に説明するスキルなど。
効果:会議や資料作成、対人説明などで説得力や正確性が増す。

・コンプライアンス研修
目的:法令遵守と企業倫理の意識を高める。
内容:社内ルール、個人情報保護、公私の区別、贈収賄の禁止など。
効果:不祥事やトラブルを未然に防ぎ、組織の信頼性が高まる。

・ハラスメント研修
目的:ハラスメントを正しく理解し、予防と適切な対応ができるようにする。
内容:パワハラ・セクハラ・マタハラなどの事例紹介、加害・被害・第三者の視点での考察。
効果:安心して働ける職場づくりにつながり、離職防止やエンゲージメント向上に寄与。

・プレゼンテーション研修
目的:相手に伝わるプレゼン技術を習得する。
内容:プレゼンの構成法、話し方、視線・ジェスチャーの使い方、緊張克服の方法など。
効果:社内外の発表や提案での説得力が高まり、成果につながる。

・Excel研修
目的:データ処理や業務効率を向上させる実践力をつける。
内容:基本操作、関数、グラフ作成、ピボットテーブル、データ分析の基礎など。
効果:業務のスピードと精度が上がり、属人化の防止や業務改善にもつながる。

・リーダーシップ研修
目的:チームや組織を導く力を育てる。
内容:信頼関係の築き方、ビジョン共有、メンバーの巻き込み方、多様なリーダー像の理解。
効果:現場での影響力が高まり、チームの活性化や成果創出につながる

・コーチング研修
目的:部下や同僚の自発的な成長を促す関わり方を身につける。
内容:傾聴、承認、質問などのスキルを用いた対話技法、信頼構築の方法。
効果:育成力が向上し、メンバーのモチベーションやパフォーマンスを引き出せる。

・マネジメント研修
目的:組織を効果的に運営するためのマネジメント力を強化する。
内容:目標設定、進捗管理、人材育成、評価、リスクマネジメントなど。
効果:チーム運営や部門管理がスムーズになり、成果を出すための基盤が整う。

・DX研修
目的:デジタル技術を活用し、業務改善・組織変革を実現できる人材を育成する。
内容:デジタルツールの基本、データ活用、業務プロセスの見直し、変革の考え方。
効果:変化に強い人材・組織づくりが進み、持続的な競争力を生み出す。

③ 実務に直結する専門性を養う「職種別研修」

職種別研修は、それぞれの職務に必要なスキルや知識を深め、即戦力として活躍できる人材を育てることを目的とした研修です。営業やエンジニアなど、業務内容が専門的であるほど、現場での成果に直結する研修が求められます。部署ごとのニーズに応じて独自に企画されることも多く、現場主導で行われるケースも一般的です。

・営業職研修
顧客の課題を的確に把握し、信頼関係を築きながら最適な提案を行うためのスキルを習得します。ヒアリングや資料作成、クロージングなど基本の営業プロセスに加え、プレゼン技術やクレーム対応、心理的アプローチといった応用力も強化。実践型のトレーニングで即戦力を目指します。

・デザイナー研修
ビジュアルだけでなく、ユーザー体験やブランド視点を重視したデザイン力を養います。UI/UX設計、デザインツールの操作、トレンド理解、プロジェクト連携など、実務で求められる知識とスキルを総合的に学ぶのが特長です。フィードバックをもとに作品を改善していく形式が一般的です。

・マーケティング研修
市場分析から施策立案・実行まで、マーケティング活動の全体像を体系的に学びます。特に、デジタル領域ではSEOやSNS運用、広告配信などの実務知識が重視されます。PDCAやKPI設計など、成果につなげるための分析・改善手法も習得します。

・カスタマーサクセス研修
SaaS企業などで重視される、顧客との長期的な関係構築力を養う研修です。オンボーディング、継続フォロー、解約防止の対応スキルに加え、コミュニケーション力やデータ活用力も身につけます。顧客の成功を支援し、満足度と継続率の向上を目指します。

・エンジニア研修
プログラミングや設計などの技術スキルはもちろん、チーム開発やアジャイル手法、セキュリティ対策など、現場で必要となる幅広い知識を実践的に学びます。技術レベルに応じて研修内容を段階的に構成し、新卒から中堅層、リーダー層まで対応可能です

研修を効果的に活用するためのポイント

人材育成において研修を活かすには、研修の「前」と「後」の工夫がカギになります。受講中の取り組みも大切ですが、ただメモを取って終わるのではなく、その学びを業務にどうつなげるかが成果に直結します。以下の4つの観点から研修の活用ポイントを解説します。

① 行動変容を目的に研修を設計する

研修が「意味がない」と言われる一因は、現場業務と結びつかない内容になっていることです。知識があっても、それを業務で実践できなければ価値は限定的です。
そのため、研修は“知識習得”ではなく“行動変容”を目的に設計することが重要です。管理職へのヒアリングを通じて、現場で起きている課題や求められるスキルを把握し、それに応じた研修内容を設定することで、実務と直結する育成が実現できます。

② 研修前に目的と期待を伝える

研修への姿勢は、事前の動機付けによって大きく変わります。「なぜこの研修を受けるのか」「受講を通じてどう成長してほしいのか」といった期待を、本人にしっかりと伝えることで、受講者の主体性が高まります。
この動機づけは、日常の業務状況を把握している現場の管理職でなければ難しい側面もあります。そのため、人事部門だけでなく、管理職と連携して研修設計を進めることが効果的です。

③ 現場環境に応じた形式を選

従来のような集合型研修に限らず、Web会議ツールやeラーニングを使った形式も普及しています。特に拠点が分かれていたり、リモート勤務が多い企業では、場所や時間の制約に配慮した研修設計が求められます。
また、研修の実施時期にも注意が必要です。業務が繁忙になる時期を避けるなど、現場への負担を軽減しながら学びやすい環境を整えることも大切です。

④ 育成担当者のスキルを高める

研修の設計や運営を担う育成担当者の力量が、研修効果を左右します。現場課題を理解したうえで適切な目標を設定し、受講者のレベルに合ったコンテンツを組み立てる力が求められます。
さらに、受講者の反応や成長度を把握して適切なフィードバックを行うコミュニケーション力も重要です。育成担当者自身が継続的に学び、スキルを高めていくことが、組織全体の人材育成力を底上げします。

まとめ

人材育成研修には、OJT(現場での指導)、OFF-JT(職場を離れた研修)、そしてSD(自己啓発)の3つの基本的な手法があり、それぞれに多様なプログラムが存在します。

新入社員から管理職、さらには幹部候補まで、人材のレベルや役割に応じた研修を計画的に実施することで、成長の機会を提供できます。特に中小企業においては、一人ひとりの成長が組織全体への影響力を持つため、個別性を重視した育成がより重要です。

また、研修の目的と目標を明確に設定し、関係者と共有することで、受講者の意欲が高まり、学びの効果も向上します。

重要なのは、現場で成果につながるような研修を選び、活かすこと。社員の成長は、やがて組織全体のパフォーマンス向上にも直結します。適切な研修設計と運用で、人材育成を企業の強みにしていきましょう。

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