訪問介護の移動時間は、事業所から利用者宅、利用者宅から次の利用者宅への通常程度の移動であれば労働時間にあたり、賃金の支払いが必要です。厚生労働省は通達でこの考え方を示し、2021年にもあらためて周知を求めています(介護保険最新情報Vol.912)。
求人では「移動時間あり」「移動手当あり」と書くだけでは足りません。どの移動を勤務時間として記録し、どう賃金を計算するのか。記録やキャンセル時はどうなるのか。これを経路ごとに書くと、応募前の誤解と入職後の不信を防げます。この記事では、ヨビコム介護の支援担当への取材をもとに、確認項目と記載例をまとめます。
移動時間の扱いの基本(厚生労働省の通達)
訪問介護の労働時間については、2004年の通達「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」(基発第0827001号)が基本になります(厚生労働省 法令等データベース)。求人に関わる部分を整理すると、次のとおりです。
| 時間の |
通達の |
|---|---|
| 移動時間 | 事業場、集合場所、利用者宅の相互間の移動。業務に必要な移動を命じ、自由に使えない時間であれば労働時間 |
| 待機時間 | 急な需要に備えて事業場などで待機を命じ、自由に使えない時間であれば労働時間 |
| 報告書などの作成 | 業務上義務付けられ、指揮監督のもとで作成していれば労働時間 |
| 研修 | 明示的な指示に基づく場合は労働時間 |
| 利用者のキャンセル | 使用者の責めに帰すべき事由で休業させた場合、平均賃金の60%以上の休業手当が必要 |
キャンセルについては、他の利用者宅での勤務など代わりの業務を検討し尽くしていない場合は、事業主の責めに帰すべき事由があるとされます(介護保険最新情報Vol.912)。
移動時間の賃金額は、訪問中と同じでなければならないわけではありません。通達は、業務に直接従事する時間とそれ以外の時間の賃金水準は「最低賃金額を下回らない範囲で、労使の話合いにより決定されるべきもの」としています。また、ガソリン代などの実費の支給は賃金ではないため、最低賃金との比較には含めません(基発第0827001号)。
求職者がよく聞く5つの質問
取材によると、移動時間や移動手当について、求職者からよく聞かれるのは次の5つです。
- 訪問先から次の訪問先への移動に賃金は出るか
- 自宅から最初の利用者宅へ直行する時間は、通勤か勤務か
- 自家用車のガソリン代・駐車場代、自転車の費用は誰が負担するか
- 予定がキャンセルになったときの手当はあるか
- 記録の入力や報告にかかる時間は勤務時間か
移動中の実態、指揮命令の有無、待機中の拘束の程度で扱いは変わります。支援担当は、求人で「移動は無給」と一律に書くのは危険だと指摘しています。上の5つに求人の段階で答えておくと、面接での確認も短く済みます。
求人に書く前に、経路ごとに確認すること
取材では、求人を作る前に次の項目を就業規則・雇用契約・実際の勤務記録で照合しているとのことでした。
| 確認する |
確認の |
|---|---|
| 自宅→最初の訪問先 | 直行を認めているか、事業所への立ち寄りが必要か |
| 訪問先A→訪問先B | 勤務時間として記録しているか、賃金の計算方法 |
| 最後の訪問先→自宅 | 直帰を認めているか、事業所に戻る必要があるか |
| 移動手段 | 自転車・バイク・車の貸与か、自家用か |
| 交通費・車両手当 | 燃料、保険、駐車場の負担の分け方 |
| 訪問間の待機 | 空き時間の過ごし方と扱い |
| 記録の入力 | どこで、どの時間に入力するか |
| キャンセル時 | 代わりの業務の有無、手当の扱い |
| 訪問先の変更 | 当日の変更時の連絡と扱い |
通達が定義する移動時間は「事業場、集合場所、利用者宅の相互間」の移動で、自宅から最初の訪問先への移動について直接は触れていません。直行直帰の扱いは、事業所への立ち寄りの指示があるかなど実態で判断が分かれるため、社会保険労務士など労務の専門家と整合させてから求人に載せます。
求人の記載例
取材で共有された記載例は次のとおりです。数字は書き方を示すための例で、実際は事業所の実績で置き換えます。
担当エリア:拠点から概ね5km圏。1日4〜5件の訪問例(実績により変動)。訪問間の移動は勤務時間として記録します。移動用の自転車を貸与。直行直帰は担当日程により相談可。自宅から最初の訪問先・最後の訪問先から自宅の扱いは就業規則に準じます。
さらに伝わりやすくするために、次の2つを添えるのがおすすめです。
- 曜日別の1日のスケジュールを表にし、サービス提供・移動・記録の時間を色分けする
- 収入例を載せる場合は計算の根拠を添える(例:時給○円×(サービス提供○時間+移動○時間+記録○時間)。○は実績で記入)
書き方を変えると何が変わるか
支援担当は、「高時給○円」だけの求人を、サービス提供・移動・記録・待機の支払いの区分と1日の実働例が分かる求人に変えれば、応募前の誤解と途中での離脱を減らせる可能性があると見ています。これは見込みであり、効果は「表示→応募→採用」の数字で事業所ごとに検証します。
| Before | After | |
|---|---|---|
| 見出し | 高時給!訪問1件○円 | 移動・記録も勤務時間として記録。1日の時間割を公開 |
| 賃金 | 時給○円 | サービス提供時給○円、移動・記録・待機の時給○円、キャンセル時の扱い |
| 1日の流れ | 記載なし | 曜日別のスケジュール表 |
| 交通 | 交通費支給 | 自転車貸与、自家用車の場合の燃料・駐車場の負担表 |
やりがちな失敗と「三点照合」
取材で挙がった、起こりがちな失敗は次のとおりです(特定の事業所で起きた事例ではありません)。
- 訪問時の時給だけを示し、移動や記録が無給だと受け取られる
- 「直行直帰可」と書きながら、実際は毎日事業所への立ち寄りが必須
- 1日の訪問件数の平均と最大を混同して書く
- 自家用車を使う場合の経費を説明していない
対策は、求人・労働条件通知書・給与計算のロジックの3つを突き合わせる「三点照合」です。求人だけ整えても、給与明細と合わなければ入職後の不信につながります。支援担当は「違法な労働時間の切り捨てを、採用広報で取り繕わない」ことを原則にしています。
求人の内容は、職業安定法で正確かつ最新に保つことが義務付けられ、誤解を生じさせる表示も禁止されています(厚生労働省「労働者の募集ルールが変わります」)。移動時間の扱いを変えたら、媒体・自社サイト・ハローワークの求人を同時に直します。
公開前に、次の項目を確認します。
- 訪問先間の移動を勤務時間として記録する方法を書いた
- 移動・記録・待機の時給(訪問中と違う場合はその額)を書いた
- 直行直帰の可否と、自宅からの移動の扱いを就業規則と合わせた
- 自転車・車の貸与の有無と、自家用の場合の経費負担を書いた
- 利用者のキャンセル時の扱い(代わりの業務・手当)を書いた
- 1日の訪問件数を「例」と「幅」で書いた
- 求人・労働条件通知書・給与計算の三点が一致している
- 媒体・自社サイト・ハローワークの記載がそろっている
よくある質問
Q.
A. どの移動かと指揮命令の有無に応じて、法令と就業規則で判断すると伝えます。そのうえで、訪問先間の業務上の移動は労働時間になる場合があることを明示し、事業所での実際の記録方法と計算方法を説明します。
Q.
A. 燃料代、任意保険、駐車場代をそれぞれ誰がどう負担するかを表にして示します。実費の支給は賃金とは別に扱われるため、「時給」と「車両に関する支給」は分けて書きます。
Q. 1日の
A. 一定とは限らないため、モデルの件数と実績の幅を両方書きます。応募前に1日の時間割を見せると、件数の違いによる働き方の差も伝わります。
Q.
A. 通達は、直接従事する時間とそれ以外の時間の賃金水準は最低賃金を下回らない範囲で労使の話合いにより決めるとしています。設定した場合は、その区分を求人にも書きます。
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