2026年6月の算定分から、突発的でやむを得ない事情で人員基準を下回った場合に、一定の条件を満たせば人員基準欠如による減算を猶予する特例が始まりました。猶予は1年に1回に限られ、期間は人員欠如が生じた月の翌々月までです。免除ではなく、あくまで猶予です。
条件の中心は採用活動です。ハローワークか、福祉人材センターなどの無料職業紹介を使って職員確保に取り組んでいること。民間の職業紹介を使うなら、医療・介護・保育分野の適正認定事業者を含めること。そして報告の際には、その時点で有効な求人票の写しを添付します。一方、自社のウェブサイトで採用情報を公表することは、通知では「望ましい」とされているもので、必須ではありません。
つまり、欠員が出てから慌てて動くのではなく、平時からハローワークに有効な求人を出し、採用活動の記録を残しておくことが、いちばんの準備になります。この記事では、厚生労働省の通知とQ&Aの文言に沿って要件を整理し、今から整えておきたいことをまとめます。
減算猶予の中身(通知の文言で確認)
この特例は、2026年5月8日に厚生労働省が出した通知(介護保険最新情報Vol.1502)で示されました。通所介護の例では、次のように書かれています(介護保険最新情報Vol.1502)。
突発的で想定が困難な事象によりやむを得ない事情が生じ、人員基準上必要とされる員数から1割の範囲内で減少した場合であって、次のaからdまでの全てに該当するときは、(中略)1年に1回に限り、人員欠如の発生が生じた日の属する月の翌々月までの間、(中略)減算の適用を猶予する。
適用は2026年6月の算定分からです(同通知)。要件a〜dの中身と、その強さを整理すると次のようになります。
| 要件 | 通知の |
強さ |
|---|---|---|
| a | ハローワーク、または都道府県ナースセンター・福祉人材センターなどの無料職業紹介を活用して職員確保に取り組んでいる | 必須。やむを得ない事情がなくても、求人をするときはこれらを活用することが「望ましい」 |
| b | 民間の職業紹介事業者を利用する場合は、医療・介護・保育分野の適正な有料職業紹介事業者認定制度による適正認定事業者を含む | 民間紹介を使う場合は必須 |
| c | ハローワークなどを活用している場合でも、事業所が自ら採用情報をウェブサイトで公表するなど、積極的に取り組んでいる | 「望ましい」 |
| d | 一部の職員に過度な業務負担がかからないよう、適正な労働時間管理を行い、体制の整備を図る | 「努める」 |
cについては、Q&Aで「自ら管理するホームページ等を有しない場合については、この限りではない」とされています(同通知 別添2 問4)。自社サイトがないことだけで、猶予が受けられなくなるわけではありません。
民間の紹介会社を使う場合は、その会社が適正認定事業者かどうかを確認しておきます。認定事業者は、医療・介護・保育分野の適正な有料職業紹介事業者の認定制度のサイトで検索できます。
対象になるサービスと欠員
Q&Aでは、この特例の対象として次のサービスが挙げられています(介護保険最新情報Vol.1502 別添2)。
- 通所介護、地域密着型通所介護、(介護予防)認知症対応型通所介護
- (介護予防)通所リハビリテーション
- (介護予防)短期入所生活介護、(介護予防)短期入所療養介護
- (介護予防)特定施設入居者生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護
- 介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院
- (介護予防)小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護
- (介護予防)認知症対応型共同生活介護
訪問介護は、この一覧に含まれていません。
対象になる欠員の範囲は、サービスの種類で書き方が違います。通所介護などでは「人員基準上必要とされる員数から1割の範囲内で減少した場合」です。1割を超えて欠けた場合は対象になりません。施設系や地域密着型の通則では、看護・介護職員が1割の範囲内で欠けた場合に加えて、看護・介護職員以外の職種が欠けた場合も対象の書き方になっています(同通知 別紙2・別紙4)。自事業所がどの規定にあたるかは、通知の該当箇所と指定権者に確認してください。
「突発的で想定が困難な事象によりやむを得ない事情」について、Q&Aは次のような場合を例に挙げています(同 問2)。
- 職員や家族の突発的な体調不良などで、1か月を超える不在が見込まれる場合
- 職員の自己都合による急な離職などが、複数重なった場合
体調不良などで長期不在が見込まれる場合でも、ハローワークなどへの求人は、短期的な不在を補うためだけでなく、長期的に安定した人材確保の観点から内容を検討すべきだとされています(同 問2)。
「1年に1回」の1年は、人員欠如が生じた月の翌々月の初日から数えます(同 問3)。
もともとの減算ルールとの関係
猶予の意味をつかむには、もともとの減算のルールを押さえておく必要があります。通所リハビリテーションや地域密着型通所介護の規定を例にとると、看護・介護職員などの人員基準欠如は次のように扱われます(介護保険最新情報Vol.1502 別紙1・別紙4)。
| 欠員の |
もともとの |
2026年6月からの |
|---|---|---|
| 必要数から1割を超えて減少 | その翌月から、欠如が解消された月まで減算 | 対象外 |
| 必要数から1割の範囲内で減少 | その翌々月から、欠如が解消された月まで減算(翌月の末日に基準を満たしていれば減算しない) | 要件を満たせば、年1回、発生月の翌々月まで減算を猶予 |
つまり、1割の範囲内の欠員でも、翌月末までに埋まらなければ翌々月から減算になるのがもともとのルールです。特例が使えると、この翌々月の分まで減算が猶予され、採用のための時間が少し延びます。ただし、その間に欠員が埋まらなければ、猶予が終わった後は通常どおり減算の対象になります。
減算の具体的な割合や、職種ごとの扱いはサービスによって違います。自事業所の規定は、指定権者が示す資料で確認してください。
猶予を受けるための報告の手順
猶予を受けるには、職員確保の取組と、一時的に職員を確保できないやむを得ない事情であることを所定の様式に書き、人員欠如が生じた月の翌月までに報告します。様式は、通所介護などでは別紙様式7、短期入所・特定施設・施設系では別紙様式14、地域密着型サービスでは別紙様式11です。報告先は都道府県知事、地域密着型サービスは市町村長です(介護保険最新情報Vol.1502)。
様式には、欠員となった職種、人員欠如の発生月、やむを得ない事情の概要、職員確保の取組(ハローワーク、無料職業紹介、民間紹介、適正認定事業者の利用)、労働時間管理の状況を記入します。そして、報告する時点で有効な求人票の写しを添付することとされています(同通知 別紙様式7)。
ここが採用活動と直結するところです。欠員が出た月の翌月までに報告するには、その時点で有効な求人がなければなりません。求人を出していなかった、出していたが期限が切れていた、という状態だと、手続きが間に合わないおそれがあります。
今から準備しておきたいこと
制度を使う場面が来ないのが理想ですが、準備は採用力そのものを上げることにもつながります。平時に整えておきたいのは次のことです。
- ハローワークに、主な職種の求人を有効な状態で出しておく
- 福祉人材センターやナースセンターの使い方を確認しておく
- 取引のある民間の紹介会社が、適正認定事業者かどうかを確認しておく
- 自社の採用ページで、採用情報を公表しておく(通知上は「望ましい」)
- 職種ごとの人員基準上の必要数と、常勤換算の実数を毎月確認する
- 求人票の公開日・更新日を記録しておく
- 職員の労働時間を記録し、残業が偏っていないかを確認する
記録として残しておきたいものも、ヨビコム介護では次のように整理しています。
- 人員の不足が生じた日、原因、必要人数と実人数、常勤換算の月別の推移
- 勤務表
- 求人票の公開日と更新日、ハローワークの受付の記録
- 応募への対応の記録、面接の履歴
- 紹介会社とのやり取り
- 労働時間の記録
- 指定権者に照会した内容と日付
応募者や職員の個人情報が含まれる記録は、閲覧できる人と保管期間を決めて管理します。報告の正式な様式や添付書類の扱いは、指定権者が示す内容で確認してください。
ハローワークの求人者マイページでは、求人の申込み・変更、オンラインでの自主応募の受付、公開している求職者への直接リクエストなどができます(ハローワークインターネットサービス)。求人の掲載だけで終わらせず、応募が来たときの対応まで整えておくことが大切です。
欠員が出たら、最初の2週間でやること
ヨビコム介護の支援担当が考える、欠員が出てから2週間の動き方は次のとおりです。
| 時期 | やる |
|---|---|
| 1〜2日目 | サービスごとの人員基準上の必要数、常勤換算、勤務表を確認する。指定権者と管理者で、減算や猶予に関わるかを判断する |
| 3〜5日目 | 求人票を直し、ハローワークと福祉人材センターに登録する。過去の応募者に再度連絡する。社内のシフトを調整する |
| 6〜10日目 | 適正認定を確認した紹介会社も並行して使う。応募には当日中に連絡し、見学を設定する |
| 11〜14日目 | 面接と採用の見込みを立て、受け入れの準備をする。採用活動の記録を保存する |
この間、無理な勤務で欠員を埋めないことが前提です。要件dにあるとおり、一部の職員に負担を集中させない体制が求められています。
応募への最初の連絡は、当日中、遅くとも営業日の24時間以内を目安にしています。欠員が出たときほど、応募者を待たせると他の事業所に流れてしまいます。面接の実施と採用の判断は、事業所が行います。
猶予を受けるときにありがちな失敗
支援の中で、事業所が陥りやすいと考えている失敗は次のとおりです。
- 猶予を「欠員が出たら自動で減算が止まる」と思い込む
- 1割を超える欠員を見逃し、対象外だと気づかない
- 採用活動の証拠となる求人票や記録が残っていない
- 人手不足を、恒常的な残業で補ってしまう
- 資格の要件を緩めて、要件を満たさない人を配置してしまう
欠員が続くと、残っている職員のシフトの負担が増え、新規の利用者の受け入れを制限せざるを得なくなります。売上が下がり、職員がさらに疲れる、という悪循環にもつながりやすくなります。減算や人員配置への影響はサービスの種類や欠員の期間で違うため、稼働率と人員配置の両面から、採用の優先順位を決めておきます。
猶予の制度は、採用活動の代わりにはなりません。欠員が出る前の準備と、出たあとの早い対応が基本です。
よくある質問
猶予があるなら、採用を後回しにしてもよいですか?
いいえ。猶予は1年に1回で、期間も翌々月までです。突発的な事情であること、欠員の割合、採用活動の実績、労働時間の管理といった条件を満たす必要があり、採用を進めることが前提の制度です。
民間の紹介会社なら、どこを使ってもよいですか?
民間の職業紹介を使う場合は、適正認定事業者を含めることが要件です。利用している会社が認定を受けているか、事前に確認してください。
自社の採用サイトがないと、猶予は受けられませんか?
通知では、自社のウェブサイトでの採用情報の公表は「望ましい」とされているもので、Q&Aでは自ら管理するホームページなどがない場合は「この限りではない」とされています。ただし、採用ページは平時の応募を集めるうえでも役立ちます。
どこに相談すればよいですか?
猶予の対象や手続きは、指定権者(都道府県、指定都市・中核市、地域密着型サービスは市町村)に確認してください。労働時間の管理などは、社会保険労務士などの専門家に相談すると安心です。
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