介護事業所が採用業務で生成AIを使うときの基本は、3つです。応募者・利用者・職員の個人情報をそのまま入力しないこと。AIが作った文章は下書きとして扱い、人が根拠と照らして確認してから使うこと。そして、合否の判断をAIに任せないことです。
この3つを守れば、求人原稿の構成案、応募者への返信文の下書き、面接質問の案づくりなど、時間のかかる作業を効率化できます。この記事では、介護事業所の採用を支援するヨビコム介護の知見と、個人情報保護委員会の注意喚起をもとに、使いどころと運用ルールを整理します。
採用業務で生成AIが役立つ場面
ヨビコム介護を運営する株式会社Digital&でも、社内で生成AIを使って、求人の構成案、職種ごとのターゲットの整理、広告文や採用サイトの骨子、ヒアリングの質問、募集要件の抜け漏れの点検、面接質問の草案などを作ることがあります。
介護事業所の採用業務では、とくに次のような使い方が向いています。
| 使いどころ | 生成AIに |
人が |
|---|---|---|
| 求人原稿 | 職種ごとのシフト・夜勤・資格・処遇改善の情報を整理する枠組み、構成案 | 労働条件、給与、手当の内容 |
| 応募者への連絡 | 面接日程の案内や、よくある問い合わせへの返信文のテンプレート | 個別の応募者への送信内容と送信 |
| 面接の準備 | 職種ごとの面接質問の案 | 質問の採否、評価と合否 |
| 原稿の点検 | 誤字や分かりにくい表現の指摘、記載漏れの確認 | 修正の判断 |
ポイントは、最終的な労働条件、法令への適合、人員配置は人が決めることです。生成AIは、作業の「たたき台」を早く作る道具として使います。
個人情報を入力しないためのルール
個人情報保護委員会の注意喚起
個人情報保護委員会は2023年6月2日に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を公表し、事業者が生成AIサービスを使う際の注意点を示しています(個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」)。
- 個人情報を含むプロンプト(AIへの指示文)を入力する場合は、特定した利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること
- 本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、その個人データが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合、個人情報保護法の規定に違反する可能性があること。そのため、入力する場合は、サービスを提供する事業者がその個人データを機械学習に利用しないことなどを十分に確認すること
また、利用者の病歴や心身の障害に関する情報は、個人情報保護法で「要配慮個人情報」とされ、とくに慎重な扱いが求められる情報です(個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」)。介護事業所は、日常的にこうした情報を扱っている点に注意が必要です。
採用の場面では、職業安定法により、求職者の個人情報を集める際に、収集・使用・保管する業務の目的を具体的に明らかにすることも求められています(厚生労働省「労働者の募集ルールが変わります」)。
入力しない情報の例
ヨビコム介護の支援担当は、次のような情報を、法人として承認していない外部の生成AIにそのまま入力しないよう事業所に伝えています。
- 利用者・ご家族・応募者の氏名、住所、電話番号
- 利用者の病歴、要介護度
- 顔写真
- 個別の面談記録や採用の評価
- 職員の給与明細
入力してよい情報の例
一方で、次のような情報なら、個人を特定せずに草案を作れます。
- すでに公開している求人原稿
- 個人が分からないように書き換えた、説明用の業務の例
- 人数や割合などの集計値
法人として確認しておくこと
法人で生成AIを導入する場合は、個人情報保護の責任者が次の点を確認します。
- 契約上のデータの取り扱いの条件
- 入力した内容が学習に使われるかどうかの設定
- 入力内容の保存期間
- 誰が使えるかというアクセスの制限
- 委託先としての管理
AIの下書きを人が確認する手順
AIが作った文章は、もっともらしくても事実と違うことがあります。個人情報保護委員会の注意喚起も、生成AIの応答結果には不正確な内容が含まれることがあると指摘しています。
支援担当がすすめる確認の手順は次のとおりです。
- 主張と
数字を :AIの文章から、条件や数字が書かれた部分を拾い出す抜き出す - 根拠と
照らし合わせる :給与規程、勤務表、行政の通知、求人の管理画面、現場への聞き取りで確認する - 専門の
担当者が :資格、処遇改善、夜勤、労働条件の誤りを、労務の担当者や施設の責任者が確認する確認する - 不適切な
表現を :差別的な表現や、誤解を招く表現を取り除く削る - 記録を
残す :最終版と、確認した人・日付を保存する
介護の安全に関わる手順、緊急時の対応、医療的な判断は、AIの出力だけで決めません。
指示文に入れておく4つの固定ルール
支援の中でよく見る失敗が、「高収入で働きやすい求人を作って」とだけ指示することです。生成AIは、実在しない手当や研修制度、夜勤の条件まで補って書いてしまうことがあります。
求人原稿を作るときの指示文には、次の4つを毎回入れておくことをおすすめします。
- 分からない情報は空欄のままにする
- 根拠のない数字は書かない
- 参照したURLを付ける
- 人事の承認前に公開しない
制度の改正日なども、AIの文章をそのまま転記せず、必ず省庁の資料で確認してください。求人情報には、虚偽や誤解を生じさせる表示の禁止と、正確で最新の内容に保つ義務があります(厚生労働省「労働者の募集ルールが変わります」)。
合否の判断をAIに任せない
ヨビコム介護では、面接の実施と合否の判断は事業所が行うものと考えています。AIが担うのは下書きまでで、送信と判断は人が行います。
支援担当が「危ない使い方」として挙げるのは次のようなものです。
- 応募者をAIで自動的に順位づけし、根拠を確認しないまま不採用にする
- 利用者の記録を、そのままプロンプトに貼り付ける
- AIが作った架空の事例を、自社の実績として紹介する
- 存在しない加算・手当・資格要件を、求人原稿に転記する
- 権限の設定をしないまま、面談記録を社外と共有する
生成AIが、個別の採用の可否や、介護記録の医学的な妥当性を保証することはありません。
生成AI利用ルール チェックリスト
- 入力してはいけない情報を一覧にし、職員に周知した
- 法人として使ってよいサービスを決めた
- 学習への利用設定、保存期間、アクセス制限を確認した
- 求人原稿の指示文に4つの固定ルールを入れている
- AIの文章を根拠と照合する担当者を決めた
- 合否の判断にAIの出力を使わないことを明文化した
- 最終版と確認者・日付を保存している
効果の測り方と、始めやすい業務
生成AIの効果は、「速くなった気がする」ではなく、数字で確かめます。支援担当がすすめる方法は、同じ種類の求人原稿を「人だけで作る場合」と「AIで初稿を作り、人が確認する場合」で比べ、次の項目を記録することです。
- 初稿の作成にかかった時間
- 確認にかかった時間
- 修正の回数
- 条件や法令に関する誤りの件数
たとえば「1件120分かかっていた原稿づくりを60分にする」といった目標を置く方法があります。これは目標の立て方の例で、実際の効果は業務の内容によって変わります。短くなった時間は、職員へのインタビューや募集条件の確認など、人にしかできない作業に回すのがおすすめです。
始めるなら、公開済みの求人原稿の校正、面接質問の案、問い合わせへの返信テンプレートなど、個人情報を扱わない業務からが安全です。
よくある質問
個人情報を入れなければ、自由に使ってよいですか?
個人が特定されないように書き換えたうえで、法人としてのルール、契約の条件、使ってよいサービスを別途確認してください。個人情報を入れないことは、出発点の一つです。
求人原稿をAIに丸ごと任せられますか?
AIに任せるのは草案までです。労働条件、法令への適合、表現は人が確認し、承認してから公開します。
何から始めればよいですか?
公開済みの求人原稿の校正、面接質問の案、問い合わせ返信のテンプレートなど、個人情報を扱わない低リスクの業務から始めましょう。
効果はどう測ればよいですか?
作成と修正にかかった合計の時間と、誤りの件数を、AIを使う前と後で比べます。
生成AIを、安全に採用業務へ
生成AIは、ルールを決めて使えば、採用業務の負担を減らす力になります。ヨビコム介護では、介護事業所の採用業務へのAI導入を、入力ルールや確認手順の整備から支援しています。
貴事業所の場合、どこから直すとよいか。無料採用相談で、求人原稿・媒体の使い方・応募対応を点検し、優先して見直したい項目をお伝えします。
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